第七話・ロップ・イヤー家の新たな家族

 屋敷の高い壁の下で、有害キノコの駆除をしていたロップ・イヤー家の前に現れたのは、牛か軽トラックほどの大きさがある白黒の斑牛模様をした、マンジュウ型の毛玉生物だった。

「ウィーク……ウィーク」と鳴きながら、ゆっくりと近づいてくる生物には前髪で隠れた黒豆のような目と、洞窟のような牙が生えた口があった。

 ネズミのような小さな耳は確認できたが、足は短すぎて確認できなかった。


「ウィーク……ウィーク」

 鳴きながら、ゆっくりと近づいてくる未知の生物にどう対象したらいいのかわからずに、固まるロップ・イヤー家の者たち。

 子どもたちの前に進み出たジェーンが、少し震えながらスコップを構える。


 ジェーンが呟く。

「なんなの、この生物……屋敷の壁に穴を開けて入り込んだのは、この生物?」

 スコップの柄を握りしめる母親の前に進み出てきた、三男フェブが母親を制する。

「母さん、スコップを下ろして……こちらに危害を加える気持ちは無いと示して」

 未知の毛玉生物は、進行をやめると、牙を剥き出しにして威嚇いかくでうなる。


 ジュライが、避難指示を出そうとしているのを見たフェブが、首を横に振って言った。

「なにもしないで、動物を刺激しないで……避難するなら、相手の方を見ながらゆっくりと後ずさりして……大丈夫、怯えているだけだから」


 その時──子猫を連れたマンスリーが現れて、ロップ・イヤー家の者を守るように。

「シャァァァ!」

 と、毛を逆立ててうなってから。

 謎の生物に体を擦り寄せた。

 マンスリーと子猫たちが、毛玉生物に体を擦り寄せていると。

 毛玉生物の体の下から隠れていた、バスケットボールやバレーボールくらいの大きさの、毛玉生物が数匹出てきて。

 子猫たちとじゃれあいはじめた。


 その中の一匹の毛玉生物だけが元気がなく、母毛玉から離れずに。

 少し異常な鳴き方をしていた……まるで笑い疲れたような、苦しい声で。

「ウィーク……ウゥウィーク……ウゥウィーク」

 その様子を見たエイプリルが、フェブに慌てて言った。

「フェブ! あの子を急いで保護して! あの子、死ぬまで笑いたい茸を誤食している……治療しないと死んじゃう」


  ◆◆◆◆◆◆


 有害キノコの駆除作業も終わり──青いバラ園のガゼボでマーチとオクトは、ティータイムをしてた。

 オクトがマーチに訊ねる。

「それで、あの毛玉のような生物の正体は、わかったのかい?」

「やはり、屋敷外の異世界から食べ物を求めて入り込んでしまった……異世界生物らしいと言うのがフェブの見解だ……子供を守ろうとしていたと鳴き声から【ウィーク】と名付けて、屋敷内で世話をするコトになった……新たな家族だ」


「有毒な〝死ぬまで笑っていたい茸〟を誤食した、ウィークの子供は?」

「エイプリルが、動物病院で治療して回復に向かっている……手当が早くて良かった」

「そうか……ちょっとした騒動だったな」


 そんな会話をしていると、長男の〝職人長〟ジャニーがやって来て言った。

「オクトに、頼みたいコトがある……いつから、やってくれるかな?」

 ジャニーの柔らかい強引な口調に、少しムッとするオクト。

「こちらの都合も聞いてくれ」

「忙しかったり、何か用事があるのか?」

「いや……別に何も用事はない、ヒマな日々だ」


「だったら、いいだろう……オレだって、仕事をしている者に無理強いな頼みはしない……屋敷の中で無職で一番、ヒマそうな人物を選んでいったら、オクトにたどり着いただけだ」

「ヒマ人で悪かったな……やってやるよ」


 オーガから送られてきた、実の内部がパンのような食感の果実を、ちぎって食べながらマーチが言った。

「まだ屋敷の中に不慣れなオクトだけだと心配だから、あたしも付き添う……ジャニーお兄ちゃん、オクトに頼みたいコトってなに?」

「最近、失踪していた【ディー】叔父さんが、屋敷に帰ってきているみたいなんだ」

「あの、ディー叔父さんが?」


 ジャニーが話しを続ける。

「なんでも、噂では異世界の物品を販売する、ラバが引く移動販売馬車で商売をしているらしいのだが……なぜか、ロップ・イヤー大祖父の前には姿を現さない……結構、大祖父に叔父は子供の頃から可愛がってもらっていたはずだが?」


 マーチが、パンの実を食べ終わって言った。

「ずっと、行方不明だったから気まずいからじゃないの? ディー叔父さんは、ああ見えても、結構スジを通す人だから」

「それも、あるだろうが……ディー叔父さんの、所在を突き止めて連れてきて欲しいって言っているのは、ロップ・イヤー大祖父なんだ」

「ディー叔父がいた屋敷内の部屋は?」

「帰ってきた痕跡が無い……おそらく別の場所を住み家していると思う……どこに住んでいるのかを、突き止めて大祖父の所に行ってくれるように、説得して欲しい」


「ロップ・イヤーの大祖父が変装でもして移動販売している現場に突撃してみたら? もうすぐ屋敷内で開催される〝地獄の釜のフタ開け祭り〟も近いんだから……別に仮装で変装して近づいても誰も怪しまない……と、思うけれど」


 肩をすくめながら、ジャニーが言った。

「ロップ・イヤー大祖父も、それは試したそうだ……太陽の黄金仮面を付けて、ディー叔父さんが移動販売馬車で商売をしている現場に隠れていた物陰から、いきなり踊りながら現れて突撃したそうだ」


「結果は?」

「ディー叔父さんは、不審者の登場に、一目散で逃げた」


  ◆◆◆◆◆◆


 ディーがラバが引く馬車で、移動販売をしている現場は、屋敷住民への聞き込みでオクトにはすぐにわかった。

「さあさあ、ラバが引く移動販売だよ……屋敷外の異世界の珍しい、日用雑貨や食品がたくさんあるよ」


 移動販売馬車の周囲には、近所に住む屋敷の者たちが集まって珍しい日用雑貨や食品を、値段交渉をしながら値切って買っていた。


 髪の一部にメッシュが入ったディーが、時折ラッパのような楽器を吹き鳴らして、屋敷のお客を呼び込む。

「今日は〝オーボロ・ドゥーフ〟という名前の異世界の食べ物が安いよ……さぁ、買った買った」

「そのオーボロ・ドゥーフというモノのを、ちょうだい」

「まいど!」


 屋敷の通りに面した部屋に住む住民女性が、差し出した容器に量り売りをした。

 白い固まりの食べ物を入れているのを、少し離れて眺めていたオクトが思った。

(衣料関係の品物は少くないな……主に日用雑貨と食べ物がメインか……異世界から仕入れているのか?)


 お客が減って、品物の並び替えをしている、ディーにオクトが話しかける。

「あんたが、今まで行方不明になっていたディー叔父さんか……一緒に来てくれ、ロップ・イヤー大祖父の屋敷に」


 その言葉を聞いた途端、ディーは慌てて移動販売馬車の、売り場扉を閉めると。

 ラバの尻を叩いて、一目散に逃げ出した。

 追うオクト。

「あっ、こら待て逃がすか!」

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