第10話 手を離さない華乃

映画館を出たあと、まだ少し夕暮れの色が残る街。

人通りも多い中で、華乃はずっと、俺の手を握っていた。


横に並んで歩きながら、何度も人とすれ違うたびに

「恥ずかしい」とか「手、冷たくない?」って聞いてくるのかと思ってた。

でも、彼女は何も言わない。

ただ、指先をきゅっと絡めたまま、黙って歩いていた。


「……ねぇ、華乃」

「ん?」

「ずっと手、離さないの?」

「……やだ?」

「いや、うれしいけど……なんか、珍しいなって」

「うん……今日ちょっと、怖かったから。びっくりしたとき、輝人が手握ってくれて安心した」

「そっか」

「だから、もう少し……こうしてたいなって思って」


照れくさそうに、でも真っ直ぐにそんなことを言う彼女に、

なんかもう、それだけで胸がいっぱいになる。


「じゃあさ、俺からも言っていい?」

「なに?」

「もっとずっと、こうしていたい」


言い終わる前に、華乃は顔をそむけて、耳まで真っ赤になってた。


「……ほんとに、ずるい」

「なにが」

「そうやって、私が言いたかったこと、先に言うとこ」


でも、次の瞬間には、彼女の手がぎゅっと強くなった。

まるで、「私もそう思ってる」って、言葉の代わりみたいに。


2人の影が並んで、少しずつ長くなる道。

手を繋いだまま歩くこの距離が、何より心地よかった。

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