■3■ 10月2日(木) 春日優耶

 解散後、学生寮へ帰りながら、ぼんやりと優耶のことを考える。僕と違って幼い頃から優秀だった優耶は、海外での仕事が多い父と一緒に国外で育った。僕はと言えば、国内に残った母と一緒にずっと暮らしてきた。優耶は成長するとますます優秀さに磨きがかかり、将来を期待されていた。しかし、八月に日本に戻って来た優耶は、数日の後に帰らぬ人となった。


 僕は涙も全然でなかった。むしろ、優耶が死んだということに納得できずに、まだどこかで生きている、という気がしてならなかった。でも、やっぱり優耶は生きていなかった。ところが、その優耶が、何故か僕の頭の中に住み着くようになり、こうして会話できるようになった。以来、僕と優耶の奇妙な共同生活は続いている。


「……」


 しばらく無言で歩くと、男子寮が見えてきた。花園学園は県外から入学する生徒も多く、希望すれば寮に入ることができる。和十と真知子は通学に時間がかかるけど自宅から通うことを選択し、僕は学生寮に入ることを選択した。転校生の寧音も学生寮に入ったが、男子寮と女子寮は校舎を挟んで反対側にあるため、男子寮に向かうのは僕一人だけだった。


「ねえ優耶、結局あれは一体なんだったの?」

「あれって、幽霊のこと?」

「いや、そうじゃなくて、僕が出した炎…しらいえん、だっけ?」

「ああ、紫雷炎のことね。あれは賢の中にある霊力を指先に集約させて、霊的存在……つまり幽霊にもダメージを与えることができるようになった必殺技だね」


 必殺技と言われると、なんだか急に安っぽく感じるな。


「なんでそんな力が僕にあるのさ」

「兄ちゃんにあるんだから、賢にあったっておかしくないでしょ」


 優耶が笑いながら言う。


「でも、今まで全然そんな事なかったじゃん」

「賢が能力に目覚めてなかっただけ。今日はそのきっかけだったってわけだ」


 優耶は続ける。


「本物の幽霊が出てきた影響で、おそらく霊的な磁場が乱れてしまったんだろうね。でもそのお蔭で、今度は兄ちゃんと賢が直接接触できるようになった……水面に映った姿を通してね」

「ふぅん」


 僕は納得したような、していないような、曖昧な返事で返した。


「でも、七不思議の初っ端からこんな思いして、次は大丈夫かなぁ……」


 言いながら足元の石ころを蹴飛ばすと、石ころはカッカッと音を立てて、電柱にぶつかって動かなくなった。


「兄ちゃんもサポートするからさ、頑張っていこうぜっ!」


 楽しそうにテンション高く優耶は言う。


「なんでそんなに前向きなんだか」


 まあ、やっていくしかないか。


 その後は寮に辿り着くまで、ずっと優耶と他愛もない会話をして楽しんだ。

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