夢と野望の交叉点

九月ソナタ

第1話 はじめに

 *霧の町


 霧が白い息のように街を包み込み、遠くで霧笛が響く。

 夕焼けに浮かぶゴールデンゲート・ブリッジの朱色がぼんやりと滲み、ケーブルカーの軋む音がかすかに届く。

 どこか懐かしく、そして切ない。

 まるで街そのものが、古びた記憶を静かに語りかけてくる。

 サンフランシスコ――坂道が交差する街。過ぎ去った夢が今も息づく場所。


 この街は、無言で語りかける。

 ゴールドラッシュの喧騒、禁酒法時代のひそやかな夜、シリコンバレーの革新の嵐。

 時代が変わっても、街の奥底には、忘れ去られた物語がひっそりと息づいている。

 これから語るのは、この街に生き、時に時代を動かし、時に翻弄された人々。

 

 富と野心に飲み込まれた者。

 愛と憎しみに身を焦がした者。

 時代の荒波に抗い、自分らしく生きた者たち。

 

 彼らの足跡を辿れば、街のいたるところに、その気配がまだ漂っている。

 華やかな舞台で繰り広げられた、でも、もう誰にも覚えられていない人間模様。

 歴史書には載らないけれど、人の心に残っている物語。

 彼らの生き様、その熱が、街の片隅にひっそりと灯っている。

 

 そんなサンフランシスコ・サーガを、聞いてくださいますか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る