第15話
「下がれッ! 全員、ひれ伏せッ!!」
審査官が喉を張り上げるが、誰もが動けなかった。
第三の目――トリネットラが開いた瞬間、視界を支配するような威圧が世界を包んでいた。
逃げ出す者、震える者、泣き崩れる者。
だが俺は、そんな反応を期待していたわけじゃない。
この目は“見せつける”ためのものじゃない。
“目覚め”を告げるための存在証明だ。
「アルジュン・ガナパティ、神殿への参入を認める」
いつの間にか現れた高位神官が、そう宣言した。
赤と金の装束をまとい、額に七重の印。上位加護を示す刻印だった。
「貴殿は“破壊神の器”として、特例的に招かれた存在。我らは神意に従い、審問の場を用意した。今こそ、真理を明かすときだ」
「ようやく話が早い奴が現れたな」
「ただし、注意しておけ。神殿の中には、お前のような“異端”を受け入れぬ者も多い」
「いいさ。拒むなら潰すだけだ」
「では、我に続け」
そうして俺たちは、門を通過した。
神都ヤタラ。
その内壁を越えたとたん、世界の色が変わった。
道は黄金に敷き詰められ、歩く者すべてが加護を持つ民。祈りの声が風に混じり、建物はすべて神紋を刻んでいる。
天には浮遊する神官塔が並び、中央には“白の聖殿”――マンダラ神殿がそびえ立っていた。
あれが、俺が追放された“構造”そのもの。
「懐かしいか?」
「懐かしいってほどでもねぇ。ただ、燃やす場所がはっきりしてきた」
「ここで、あなたの時代が始まるのよ」
「楽しみだな」
歩くたびに、周囲の視線が突き刺さる。
軽蔑、疑念、恐怖、嫉妬――いろんな色が混ざってる。
だがそれらすべてが、俺の力に焼かれていくのだと、確信していた。
「アルジュン、あの建物が審問の間よ」
「行こうぜ。“神の裁き”ってやつを、こっちからやってやろう」
*
審問の間は、白大理石で造られた円形の巨大な広間だった。
天井は天球儀を模して高く描かれ、四方には神官たちの座が段状に並び、中央には“審かれる者”が立つための円台がひとつ――
かつて俺が、立たされるはずだった場所。
今、そこへ自らの足で上がっていく。
観衆の間には貴族、聖職者、そして各神官派閥の代表者が集まっていた。
視線が集まる。
憐れみではない。もはや、それは恐れだった。
「この場をもって、破壊神の器アルジュン・ガナパティの審問を開始する」
場の奥、壇上から高位神官が告げた。
その男の額には、八重の印。神殿最高評議会の長、《アグニ・カチャ》の刻印があった。
「まずは問う。貴殿は加護を持たぬ者であったにもかかわらず、なぜ神術を操るのか?」
俺はゆっくりと答える。
「加護なんざ、いらなかった。俺は、加護を受ける側じゃない。神そのものだったからな」
場がざわつく。
だが、俺は止まらない。
「神殿は俺の存在を恐れて、“加護不適合”として処理した。本当は知ってたんだろ? 俺が破壊神シヴァの転生体だってことを」
一瞬、壇上の高位神官たちの表情が凍った。
それが答えだ。
「俺の存在を認めれば、お前らの“加護制度”が崩れるから、封じたんだ。違うか?」
審問官のひとりが声を荒げる。
「そのような暴言、許されぬ! 根拠もなく神官を貶めるなど――!」
「根拠ならあるぜ」
俺はゆっくりと額に手を当てた。
第三の目が、開く。
空間に赤い光が走り、審問の間が震える。
「この目が、“真理”を照らす。お前らがどれだけ嘘を積み重ねてきたか――暴いてやるよ」
「ま、待て、それ以上は――!」
「黙れ。俺が今から見せるのは、お前ら自身の“過去”だ」
火が舞う。
空中に浮かび上がったのは、神殿内部で行われた秘密会議の幻影。
“無加護の少年の存在は危険だ。封印処理しろ”
“シヴァの印を持つ者を神官にするわけにはいかん”
“神の力は管理されねばならない。我らが選ばれし秩序の維持のために”
それを聞いた瞬間、場内が騒然となる。
「こ、これは偽物だ! 幻術だ!」
「違う。これは“記憶”。俺の中に刻まれていたもの。そして、お前たち自身が残した真実だ」
沈黙が走る。
視線が、俺を恐れではなく、敬意と驚きで捉え始めていた。
「……神官どもよ。覚えておけ」
俺は一歩、壇上に近づく。
「お前らが選ばなかった俺が、今、お前らを裁いている」
「封印も、追放も、すべては恐怖から来る選択だった」
俺の言葉に、誰もが言い返せなかった。
それが真実だからだ。
俺を無加護と断じ、力を奪い、役立たずとして蔑んだのは――加護にすがる弱き者たちだった。
「神の名を使い、秩序を名乗ることで正義を得たつもりだったんだろう? だがな、神を殺して得た秩序に、価値なんてねぇんだよ」
第三の目が、また灼けるように輝く。
空間に浮かんだ幻影が、炎に包まれて消えていく。
だが、記憶の映像はすでに刻まれた。ここにいる全員の心に。
「この審問、誰が被告で、誰が裁かれてるんだ?」
俺の言葉に、高位神官のひとりが歯噛みする。
「た、戯言を……神の意志に背く者が、何を言う!」
「神の意志? それは本当に神の意志か? それとも、お前らの都合だ?」
一歩、また一歩と壇上に近づく。
視線が集まる。
もう誰も俺に言葉を返せない。
「俺は神だ。破壊神シヴァの魂を継ぎ、記憶を受け継いだ存在だ。俺の中にあるのは、始まりも、終わりも、すべてだ」
「ならば、貴様はただの災厄だ!」
叫んだのは、王家直属の審問官。黄金の装束をまとい、加護の権化のような存在。
「なら、名乗ってみろ。神に等しい存在を自称するなら、その名でここを踏みしめてみろ!」
俺はその言葉に、笑った。
「望むところだ」
静かに、口を開く。
「我が名は、アルジュン・ガナパティ。だが今この瞬間――」
炎が渦を巻き、審問の間の天井が軋む。
「破壊神シヴァとして、“この世界の嘘”に審きを下す者と成った」
雷鳴が轟いた。
空間が裂ける。
その瞬間――
俺の背に、炎の曼荼羅が浮かび上がった。
「馬鹿な……曼荼羅顕現!? 神域でも許されぬはずの現象が……!」
「しかも“六道円環”だと!? それは、神格を超えた存在の証……!」
周囲の神官たちが次々と立ち上がる。
「止めろ! 封印陣を起動しろ! このままでは――!」
「遅い。お前らが俺を止められる時代は、もう終わったんだよ」
俺は手印を組む。
全身が炎とともに“神格の相”へと昇華する。
「この瞬間から、お前らの時代は終わる。俺の時代は、これが始まりだ」
第一の審問官が崩れ落ちた。
加護を剥奪されたかのように、ただ地に伏す。
次々と、神官たちが意識を失い、光の刻印が砕けていく。
「神の名を騙った罪人どもよ。お前らに許される救済なんざ、ねえ」
第三の目から放たれたのは、赤い線――“罪を裁く視線”。
それが一人ひとりの加護を貫き、偽りの証を剥ぎ取っていく。
「加護の正体。それは支配の道具だった」
「その支配が終わった今、次に来るのは――」
「俺による、新しい秩序だ」
そして、最後にひとつ呟く。
「ざまぁみろ」
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