追放された雑用係、古代スキルで最強へ〜神殿と禁呪を解放する俺だけのギルド無双〜
旅する書斎(☆ほしい)
第1話
ギルドの倉庫裏で、俺は今日も黙々と箱を運んでいた。朝から晩まで、ひたすらに、荷物を運び、掃除をし、書類をまとめる。これが俺の仕事だった。
「おい、ユウ。昼の支給分、まだか?」
そう声をかけてきたのは、前衛担当の冒険者──ガイルだ。いつものように、汗まみれの顔で俺を見下ろしてくる。
「はい、すぐ持ってきます」
俺は笑顔を作って応じ、ギルドの食堂まで走る。熱いスープとパンを乗せた皿を持って戻ると、彼は露骨にため息を吐いた。
「遅ぇよ。やっぱお前、戦えない上に使えねぇな」
俺は黙って頭を下げた。何度目になるかわからないこのやりとりにも、もう感情は動かなかった。
俺、ユウ・クロウは、冒険者ギルドの雑用係だ。
かつては正式な冒険者候補だった──が、スキルが発現しなかった。それがすべてだった。
この世界には「スキル」がある。魔力操作、剣術精通、探索感知、治癒術……さまざまなスキルを持つことで、人は冒険者になれる。
でも俺には、なかった。
魔力量もゼロ。ステータスも平均以下。検査のたびに「異常なし」とだけ書かれた紙を突きつけられ、気づけば雑用係に回されていた。
──ただ、それでも俺は、ギルドに居続けた。
いつか役に立てる日が来る。誰かが認めてくれる。そう思って、必死に働いていた。
けれど──
「今日で、お前はクビだ」
それは、突然の宣告だった。
ギルドマスターから直々に告げられたその言葉に、俺は何も言えなかった。
「君が役に立たないのは、皆わかっていた。でも、手が足りなかったから置いておいた。もういい。人員は揃ったし、君は用済みだよ」
目の前の男は、事務的な口調で淡々と切り捨てる。
「これ、退職金だ。少額だが、生活の足しにはなるだろう」
差し出された袋には、銀貨三枚。
笑えてきた。五年も、ずっと陰で支えてきたのに。スキルがないというだけで、俺は「使えない」判定だった。
俺は、その袋を受け取り、無言でギルドを去った。
ギルドの門を出た瞬間、肌を撫でる風が妙に冷たく感じた。
いや、違う。きっと空気はいつもと変わらない。ただ、俺の居場所がなくなったことで、すべてが薄暗く、遠く思えただけだ。
数歩、足を進める。
だが、どこに向かえばいいのか、分からなかった。
今の俺には、住む場所も、仲間も、明日もない。
唯一あるのは、五年分の徒労と、銀貨三枚の重みだけだった。
宿に泊まれば、すぐに尽きる。飯を食えば、さらに減る。かといって、他のギルドに行ったところで、スキルなしの人間を雇ってくれるはずがない。
俺は、街の片隅にある噴水広場の石畳に腰を下ろした。
陽が傾き、広場を行き交う人々の影が長く伸びている。
笑っている人、急ぎ足で帰る人、仲間と談笑している冒険者たち──
そのすべてが、自分とは無縁のものに見えた。
「……はは。俺、ほんとに、なにもないな」
誰にも届かない独り言。乾いた声だけが、広場の片隅に吸い込まれていく。
──そのとき。
耳の奥で、なにかが囁いた。
……聞こえるか。
俺は首を巡らせた。誰もいない。
幻聴か? いや、違う。これは──頭の中に、直接響いてきた声だった。
目の前の視界が、ふっと霞んだ。
同時に、脳の奥に何かが流れ込んでくる。
熱い。痛い。頭が割れそうだ。
額を押さえた瞬間、視界が一変した。
世界が、文字で覆われている。
石畳の隙間に、小さなルーンが浮かび上がり、噴水の水面に刻印のような紋様が揺らめいていた。
「な、なんだこれ……!?」
見たこともないはずのその文字が、なぜか読めた。
いや、理解できたと言うべきか。まるで、ずっと昔に学んでいたことを、突然思い出したような感覚だった。
『記録されし、神々の言葉。解読の資質を持つ者にのみ、開かれる知識』
そんな意味だった。ルーンのひとつが、そう語っていた。
俺は、震えながら呟いた。
「……これが、俺のスキル……?」
そうだ。
確信があった。これまで、検査で何も出なかったのは、スキルが現代基準のものではなかったからだ。
俺に宿っていたのは──
【古代言語解読〈アーカイヴ・リーディング〉】
千年前に滅んだ文明の、記録と知識を読み解く唯一の力。
現代の測定器には映らない、忘れ去られたスキル。
──それが、今ここで目覚めた。
俺はふらふらと立ち上がり、もう一度広場の周囲を見渡した。
石畳。噴水。ベンチ。木々。そして、通り過ぎていく人々の足元。すべてに、かすかに文字が浮かんでいる。だが、それは普通の人間には見えていないらしい。誰も驚く様子はない。
これは──完全に俺だけに見えている世界だ。
気づけば、頭の中には次々と情報が流れ込んでいた。
『この水源は地下聖堂への入口である』
『地中五メートルに封じられし扉。鍵は理解者にのみ開かれる』
『記録番号C-071。旧文明アルフ=ルナス時代の遺構』
「……マジかよ」
意味がわからないほどの情報量。それなのに、俺の中ではすべてが繋がっていく。
理解できる。読み取れる。わかる。
これは、まさしくスキルだ──いや、チートと言っても過言じゃない。
このスキルがあれば、誰も到達できなかった知識、力、秘密、遺産、すべてに触れることができる。
だが、それと同時に、俺は悟っていた。
このスキルは、「誰にも教えるべきじゃない」と。
今の俺は、雑用係として追放されたただの無能として世間に認識されている。
そしてそれは──都合がいい。
誰も俺に注目していない。だからこそ、好きに動ける。
「……面白いな。だったらまず、この水源の下に行ってみるか」
俺は噴水の縁に手をかけた。
先ほどのルーン文字が示した座標を頼りに、地面の一部を押し込む。
──カチリ。
何かがはまり込む音がしたかと思うと、噴水の水流が一瞬、逆流した。
その中心が、まるで水が裂けるように開いていく。
地下へと続く、暗く深い階段。
それは、まるでこの瞬間を待ちわびていたかのように、俺を迎え入れていた。
俺は少しだけ笑った。
「雑用係が、初めての発見か。悪くない出だしだな」
懐から小型ランタンを取り出し、明かりを灯す。
そして俺は、誰も知らない地下世界へと、足を踏み入れた。
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