第39話 ユウト、スタンピードに遭遇する

【ビデン村・郊外 墓地】


木漏れ日が墓石の上に斜めに落ちていた。

風は穏やかで、草のにおいがどこか懐かしい。


ユウトは墓石の前に手を合わせたまま、静かに目を閉じていた。

ヒデオは少し離れた木陰に立ち、何も言わずに空を見上げていた。


「……じゃあ、また来るね。母さん」


そう呟いて立ち上がると、ヒデオが頷いた。


「そろそろ渋谷に戻るか。明日からまたバタバタするぞ」


「うん」


二人は並んで車へと歩き、乗り込んだ。


山道を走り、登り坂を超えようとしたその時――


突如、村内のスピーカーが甲高く鳴り響いた。

耳障りなほど緊急度の高い警告音。そして、機械的な女声のアナウンスが告げる。


≪緊急事態発生。星霧の迷宮にてスタンピード確認。村民は直ちに避難所へ移動してください――≫


「っ……!」


ハンドルを握るヒデオが、即座にブレーキをかける。


「まさか……!」


ユウトが青ざめて父を見ると、ヒデオはすでにギアをリバースに叩き込んでいた。


「聞こえたな。戻るぞ」


「うん!」


タイヤが砂利を弾き、車体が激しく旋回する。

巻き上がる土埃の向こうで、空が一気に濁って見えた。


「この空気……魔素の濃度が急激に上がってる」


「新任の管理人、ろくに毎日の掃除もしてなかったって噂があった。やはり、やりやがったな……!」


「父さん、村にまだ人が残ってるかもしれない。急がなきゃ!」


ユウトの声に、ヒデオはアクセルを踏み込んだ。

エンジンが唸り、車体が山道を跳ねるように駆け上がる。


「今の村じゃ、自衛隊駐屯班だけじゃ持たない。最悪、ダンジョン主が動き出してる可能性もある」


「……!」


ユウトは拳を強く握りしめた。

目の奥で、これまでに見た“暴走”の記憶がよみがえる。


「頼む、間に合ってくれ……!」


遠く、村の方角の空に、黒い“煙”のような魔素の渦が昇っていた。

風の匂いが、焦げた草と鉄の匂いに変わっていく。


さっきまでの静寂は、もうどこにもなかった。

ビデン村は、今まさに“戦場”になろうとしていた。


そしてその中には、まだ――守るべきものが残っている。


ヒデオの目が鋭くなる。


「……戦うぞ。逃げ遅れた奴らを守りながら、主を抑える」


「もちろん。俺の昔の“遊び場”を、こんな形で終わらせたくない!」


親子は、迷いなく駆けた。


運命の場所へと――。


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