第22話 揺れる沈黙
封筒を開き、手紙を読んだあとの如月ミカは、深い沈黙に包まれていた。
村の夜は静かだった。
虫の音ひとつ聞こえない闇の中で、彼女だけがかすかに震えていた。
更新手続き──。
それはつまり、改めて選び直すことを意味していた。
このまま排泄のない生を受け入れるのか。
あるいは、かつてのように、出すことの歓喜に身を任せるのか。
ミカは、焚き火の前に座った。
封筒と手紙を膝の上に置き、両手を組んだ。
火は静かに燃えていた。
パチパチと薪が弾ける音が、夜の静寂に小さく響いた。
──私は、どちらを選ぶべきなのだろう?
数年前の自分なら、迷わなかったはずだ。
出すことが生であり、出すことこそが芸術だった。
だが今は違う。
出さずに、内に抱えたまま燃やし続ける生の重みを、彼女は知ってしまったのだ。
出すことは、確かに一瞬の解放をもたらす。
だがその先に、本当に何が残るのか?
ミカは焚き火をじっと見つめた。
燃え盛る炎。
そして、炎が燃え尽きたあとの、灰の静けさを。
出すことも、沈黙することも、どちらも生のかたちだった。
だが、今の自分にとって、より真実に近い生は──?
夜は更け、火は小さくなり、冷たい風が頬を撫でた。
封筒と手紙は、膝の上でまだ重たく感じられていた。
ミカは深く息を吸い、そして、ゆっくりと目を閉じた。
答えは、まだ見えなかった。
だが彼女は、逃げずにその問いと向き合おうとしていた。
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