賢者の魔法陣 ~繋ぐ繋がる異なる縁~
いわな
第一章・運命の人
第1話
夜空に流星群が瞬いていた。
それに気がついてすぐ家の明かりを消し、真っ暗な縁側に座る。
満点の星空を流れるいくつもの光の筋。とても綺麗だ。
俺はしばらくの間、そんな夜空に見入っていた。
山の中の古い古い一軒家。
家のそばには竹林。
近隣の村からも離れたこの家で一人暮らしになってずいぶん経つ。
そろそろここを出なきゃいけないとは思っている。
ずっと思い描いていた夢を果たすために。
俺は目を閉じ、星に祈った。
どうか、願いが叶いますようにと。
運命の人に会いたいです、と……
その時。何かに引っ張られるような感覚がした。
体制を崩しそうになり、踏ん張ろうとしたけど体に力が入らない。
軽い目眩と浮遊感。
そして、気がついたら俺はそこにいた。
縁側にいたはずが、なぜか石畳の上に座り込んでいる。
「え……」
しん、と静まり返った石造りの部屋。天井がなく青空が見える。
星空も流星もない。
古い家も竹林もない。
ここはどこ?
この部屋には足元にある赤の塗料で書かれた大きな魔法陣みたいなものと、白骨死体が一つあるだけ。
……怖いよ。
古びた赤いローブを着たそれは、魔法陣に手を添える形で倒れていた。体格は俺より大きいので多分男。まさかこれが俺の運命の人だなんて言わないよね、お星様。
ちょっと泣きそうになったけど、頭を振って切り替える。
死体そばには手帳がひとつ落ちていた。この人のかな。
何かの手掛かりになるかと、念仏を唱えながらそっと手に取る。
「なんまいだなんまいだ……えっと、読めないね」
日本語でも英語でもない、見たこともない文字がつらつら書かれてる。
「持ってっちゃってもいいかな」
今は読めなくても読める人に読んでもらうとか、何か機会があればなんで俺がこんな所に来てしまったのかわかるかもしれない。
「外に、話のわかる人とかいたら手っ取り早いんだけど」
ひとりごちた後、耳をすませて辺りの様子を伺う。
静かだ。
近くに人がいる感じはしない。
一応、朽ちて開きっぱなしになった木の扉があるからそこから外へ出てみた。
ここは塔みたいだ。
扉の外には下に向かう螺旋階段があった。
用心しながら階段を降りれば、いくつか扉があったけど開かなかった。下まで降りるとやっと開く扉があった。
そっと開いて外を見ればそこは雑草が蔓延った広々とした庭園で、そこにもいくつかの白骨が落ちている。剣とか鎧とか着てるから兵士とかかな。
庭園の向こうには大きな建物がある。
なんというか、西洋風の城っぽい。
用心しながら城の中にも入ってみた。
やっぱり人の気配はなく、白骨があるだけだった。
謁見の間っぽいところには王冠を被った白骨が玉座にどっかり座ってた。その周りにはドレスを纏った白骨、その他兵士とか官服とか……なんかいろいろ。
王様っぽいのが弔われることもなく放置されてるってことは……この城のある国は病気とか毒とか呪いなんかで突然滅びたとかなんかか?
思わず身震いする。
ただ、これほど白骨死体が転がっているというのに、今一つ陰惨な雰囲気とか腐臭とか息苦しくなるような感じがない。
晴れ渡る空と、吹き渡る爽やかな風と、城中に蔓延る雑草という名の緑。小鳥とか小動物はいない。ただただ静かな死んだ国。
なんとなく、もう一度手を合わせて俺は城を出ることにした。
城下には町があった。
やっぱり人っ子ひとりいない。
ただ、町には骨はなかった。
端から端まで見て回ったわけじゃないけど、見える範囲にそれはない。
あっちこっちの扉が開きっぱなしになっていたり、物が散らかってたりするから、みんな大急ぎで逃げ出した。とかかもしれない。
想像だけど。
「どうしたものか……」
もっと焦ったほうがいいんだろうけど、なんかどうにも夢心地で。
もしかしたら夜空を見ながら眠ってしまって夢でも見てるんじゃないかって気持ちも大きい。
本当に夢なら、それはそれでいいんだけどね。目が覚めれば家の縁側にいるだけだ。あのまま寝たら風邪引きは間違い無いとは思うけど。
ぷらぷらと町を歩きながら思う。
ずっと田舎で暮らしていて少し町に憧れもあったけど、こんな町に来たかったわけじゃない。
じーちゃんを見送って五年。ばーちゃんを見送って半年。
俺もいい歳なんだからって、村の世話好きおばちゃんが見合い話を持ってくるのが煩わしかったし。そろそろ家を出なきゃって思った矢先に変なところに来てしまった。
まあ、二十二歳って世間ではそこまでいい歳じゃないと思うんだけど。
町の端まで歩いてみたけどやっぱり誰もいなさそうだった。ので、今度は町を出てみることにした。
長い間、使われてなさそうな道を歩く。
街道なのか道幅は大きいし石で舗装され石垣まであるけど、やっぱり草ぼうぼう。
動き回っているうちにお腹が減ってきた。
ああ、やっぱり夢じゃないんだ。
上着のポケットに小包装の飴玉が五つあるので、一つを口に入れて転がす。
食べ物とか寝るとことかも考えなきゃだけど……空家だらけでもあの町で泊まるのはできたら避けたい。
草原を渡るような街道をつらつら歩いてしばらく。
森に差し掛かった所で石畳がどんどん崩れ始め、森に入ると道らしい道がなくなった。草や木の根に浸食されて風化してしまったんだろうな。
「……ん?」
耳を澄ますと、森をある程度進んだあたりで鳥の声が聞こえ小動物を見かけるようになった。小動物は茶色の大きなネズミっぽい。
「食えるか? まあ、獲物がいるならいざと言う時はなんとかなるか」
山暮らしのじーちゃんに獣の取り方とか捌き方を習ったし、ばーちゃんには料理の仕方を習った。あ、でも道具とか調味料がないや。
ポケットの飴ちゃんがなくなるまでに何か考えないとな、と思いつつ森を歩く。
そして──しばらく歩いて森を抜けたところで人間に遭遇した。
少女が草原を走っている。
その後ろから男が三人追いかけている。
「きゃーーっ! △▼◀︎△▷►▶︎△っっ!」
「がははっ、▼△△▲△△っ」
言葉はわからないけど悲鳴と嘲笑う笑い声はわかる。罪もない少女が悪漢にいたぶられるように追い回されていると見て間違い無いかな。実は少女の方が悪者で男達は被害者の方なんてことはない?
助けに入っていいものか……
なんて考えていたら、少女が俺に気がついた。
「△▷►▶︎っ!」
どうやら助けを求められているようだ。
俺は足元にある掌サイズの石を一つ掴むと、こっちに向かって走り出した少女の方に足を向ける。
男たちも俺に気がついたようで、少し訝しむように首を傾げたが、すぐに嘲笑じみた笑い顔に戻る。
俺、見た目は貧相だもんな。
身長は日本人の平均よりちょっと低め。顔は童顔。ばーちゃんは愛嬌があって可愛いと言ってくれたけど一般的に称賛されるような感じじゃない。食べても食べても肉も筋肉もろくにつかないし、ちょっと無理すると体調を崩しやすい。つまり、見るからに弱そう、というとこだ。
故に、たいていの相手に侮られる。
もちろん目の前の連中にも。
近くまで来た少女がちょっとがっかりしたのも仕方ない。
「△▼△▲►▽? がははっ!」
一番体格の良い男が何か言って笑い出す。
もちろん日本語じゃない。英語とかでもないし、そもそもこの男たちの格好は古い西洋圏の物語に出てくる盗賊っぽいよ。
やっぱり、異世界って奴かな。
異世界でも……俺の力は使えるのかな?
俺は呼吸を整えて耳と心を澄ます。
すると、聞こえるのだ。
声が。
男の一人が仲間に向かって話しはじめる。
『おいおい、こんなところになんで人がいる? あのじじいども以外に誰か来るって言ってたか?』
『そんな話は聞いてないな。散り散りに逃げた奴らの仲間だろ』
『この女の仲間か? こんなのいたっけか?』
『まあいい。女は売れるがこんな貧相なのは奴隷にもならんし、金目のもんだけ取って殺っとくか』
女の子は襲われていたことには違いないようだ。ついでに俺もその対象にされたらしい。
俺と男たちの間で女の子は涙目になってオロオロしている。
『ごめんなさい、ごめんなさい、巻き込んでしまってごめんなさい』
と、心の中で叫んでるのがわかる。
悪漢三人と少女一人。よし、倒そう。
俺は瞬間移動で少女の後ろへ周る。
『へ?』
と、驚いた女の子の後ろ頭に石を持ってない方の手で手刀を一発。女の子は気を失って倒れた。
『は!?』
男たちがあっけに取られてるうちに今度は男たちの後ろに跳んで、持った石に力を込めてガツン、ガツン、ガツン。
男たちも崩れ落ちた。
草原に吹き抜ける風。
俺は「ふう」とひとつ息を吐いて辺りを見渡した。誰もいないな。
見られてないよな……超能力、使ったの。
ばーちゃん譲りのこの力は、誰にも内緒で見つかってはならない。びっくり人間扱いされて晒し者にされたり、悪い奴に目をつけられて悪い事させられたり、村八分にされて暮らせなくなったりするからって、ばーちゃんが言ってた。
だから俺は、この力はずーっとひた隠しに生きてきた。
一応、もし見られていてもごまかせるように、ちょっと頑張ったらできるかもな攻撃で悪漢を倒した。ごまかすためにも女の子は最初に倒しておいたけど、女の子は俺が消えたことは気がついていても俺に倒されたとは思わないだろう。きっと。
「よっこらせ」
倒した女の子を背に背負う。
あいつら、仲間がどうとか言ってたから近くに人がいるだろう。悪漢どもに追われて散り散りって言ってたけど、大丈夫かな。
無事な人がいたら保護してもらおう。
もしその中に、星に願った運命の人とかいたら嬉しいな。
それならこの世界に来た理由もわかる。
俺が願う運命の人は、包容力があって賢くて優しくてかっこいい……彼氏、だ。
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