今日も君を指さして
星乃想來
始まりは”いいね”ひとつで
「死にたい」
そんなことを思いながら、毎日生きていた。
本気じゃない。でも、笑いながら吐きそうな瞬間が、最近はやけに多い。
生きていたくないわけじゃないけど、「もういいや」って言葉が頭の中で増えてきた。
朝が来て、制服を着て、学校に行く。
クラスメイトと適当に笑い合って、帰ってきて、シャワーを浴びて、スマホをいじって、眠る。
目を閉じて、気づけばまた朝。
まるでバグった動画みたいに、同じ日がループしてる。
そんな夜、いつもみたいにSNSを眺めていたら、タイムラインに、妙な投稿が流れてきた。
【あなたの死、お手伝いします。手伝って欲しい人は”いいね”を押してください。】
冗談だろ?と思った。
怖いもの見たさでプロフィールを開いて、過去のツイートを遡った。
どれも、意味がわからない。怖いくらいに整っていて、不気味で、静かで、でも...
なぜか目が離せなかった...
気づけば、親指で画面をタップしていた。
”いいね”
...
“いいね”を押したあと、何も起きなかった。
通知も来なければ、アカウントからの反応もない。
タイムラインはすぐに別の話題で埋もれて、その投稿のことも、なんとなく記憶の隅へ追いやられていった。
(やっぱり、ただのネタアカか)
少し拍子抜けしたような、安心したような気持ちだった。
あの夜も、いつも通り眠って、次の日もまた、同じ朝が来た。
学校に行って、誰かのどうでもいい話に笑って、帰ってきて、スマホをいじって、寝る。
いつもの日常。繰り返すループ。
だけど――三日後の夜。
ふとした瞬間、スマホの通知に気づいた。
「新着メッセージがあります。」
DMだった。
送り主は、あのアカウント。
一瞬、心臓が「ドクン」と跳ねた。
なんの気なしに“いいね”しただけのはずなのに、まるで返事を待っていたかのように、脳が静かに騒ぎ出す。
DMには、たった一文と、画像が添えられていた。
【いいねありがとうございます。こちらが当日の集合場所です。】
画像は、地図アプリのスクリーンショットだった。
駅から少し離れた、工場が並ぶ地域。
昼間でも人通りが少ない場所だと、すぐに分かった。
......
画面を見つめたまま、指先がじわりと汗ばむ。
冗談のつもりだった。でも、これは――現実だ。
カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、部屋の壁にぼんやりと影を作っている。
風がカーテンを揺らすたびに、その影もゆらゆら揺れた。
まるで誰かが、こちらを覗いているみたいに。
ぼんやりとした毎日に、ひとつだけ歪んだ予定が加わった。
メッセージが届いた日から、僕の中で何かが少しずつ変わり始めた。
それまでは、朝起きて、学校に行って、適当に過ごして、帰って、寝るだけだった日々。
でも今は、そのどこかにあの投稿と集合場所が、ずっとこびりついている。
授業中、先生の声が遠くに感じる。
友達の笑い声が、どこかうるさくて、どこか空っぽに聞こえる。
スマホを見るたび、あの地図のスクリーンショットを確認してしまう。
自分で押したいいね。
だけど、まさか本当に返事が来るなんて思ってなかった。
ふざけていたわけじゃない。
でも、覚悟があったわけでもない。
気づけば、時計を見るたびにあの日までのカウントダウンをしていた。
あと3日。あと2日。
それだけで、心臓が少し跳ねる。
夜、布団に入るたびに、妄想が暴れ出す。
知らない誰かと会って、なにかされるかもしれない。
ただのドッキリ?新興宗教?
行かなかったらどうなる?行ったらどうなる?
......気がつけば、天井の模様をずっと見つめていた。
時間だけが静かに過ぎていく。スマホの画面は真っ暗なまま。
色々考えすぎて、頭がぐるぐるしてきた。
...僕は行かないことにした。
正確には、行けなかった。
当日、スマホのアラームが鳴る前に目が覚めた。
窓の外は、曇り空。
学校のある日と同じ時間。
でも、制服じゃない服を選ぶ手が、どこかぎこちなかった。
朝食も食べずに部屋にこもって、ただ時間が過ぎていくのを眺めていた。
今、電車に乗れば間に合う
でも、もしも何かあったら?
もし、本当に死ぬようなことが起きたら?
脳内では、「もしも」が幾つも渦巻いていた。
怖さも、疑念も、かすかな希望さえも混ざって、もうぐちゃぐちゃだった。
17時。
そろそろ家を出れば間に合う時間だった。
だけど、僕はベッドに座ったまま、スマホの地図を見つめていた。
胸の奥が、ずっとチクチクする。
何もしてないのに、罪悪感みたいなものがじわじわと湧いてくる。
何もしていないのに、胸の奥がずっとチクチクする。
逃げたわけじゃないのに、なんでこんなに惨めなんだ。
そのうち、時計の針が20時を回った。
通知は何も来ない。
誰からも何も言われない。
当然だけど、誰かに責められることもない。
なのに、胸の中ではずっと、逃げたという言葉がリフレインしていた。
スマホをベッドに投げて、天井を見上げる。
何も変わらなかった。
変わらなかったことが、少しだけ怖かった。
でも、心のどこかで、まだ思っている。
もしかして、もう一度誘ってくれるかもしれない。
あの投稿が、また流れてくるかもしれない。
そう思った自分が、一番怖かった。
そしてその夜。ベランダに置いたままのサンダルの位置が、ほんの少しだけ動いていた気がした。
家族は誰も触ってないはずなのに。
......もしかして、もう見つかってるのかもしれない。
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