「桃太郎」の伝説

 ………………

 

「あっ、お犬様!お猿様!」

 祠の近くで遊んでいた村の子供達は、山からするりと現れた猿と犬の姿を見つけると、嬉しそうに手を振りながら駆け寄ってきた。

「おお、お前らまた大きくなったのう!」

 と人語を喋る猿と犬も、嬉しそうに駆け寄る。

 

 村の子供達にとって、ごく稀に山から現れる喋る犬と猿は、格好の遊び相手だった。年に数度しか現れないが、その度に土産をくれたり、日がな一日遊んでくれたりするので、子供達はこの二匹が大好きだった。

 大人達が来ると身を隠してしまうので、できるだけ見つからないように、少し山に入ったところで遊んでもらうのが常になっていた。

 

「今日はなにをして遊ぼうかのう。」

「お話を聞かせて!『桃太郎』のお話!」


 と子供達がせがむ。犬猿が語る話の中で、子供達が一番好きなお話だった。

 よっしゃよっしゃと子供達を集めると、犬と猿は声高らかに『桃太郎』の話を語り出した。


 最初は、桃夫婦の様子をこっそり見に来たタケルとササラが、スクスク育つ二人の子供達に声をかけたのが始まりだった。

 

 お館様との約定があるため、桃夫婦に直接語りかけたり文を渡す事は叶わなかった。

 置き土産をして二人にそっと気づいてもらうのが精々で、歯痒く思っていた時、二人の面影を持つ子供が祠の近くで遊んでいるのを見て、思わず声をかけてしまった。

 

 子供は育つにつれて言葉も達者になり、二人には見られない普段の桃夫婦の様子も話してくれるようになったので一石二鳥だった。お館様は気づいているはずだったが、意味ありげな笑みを浮かべるばかりで、何も言わなかった。

 

 桃の子供と遊んでいると、他の童も寄ってくるようになり、いつの間にか、里に降りてくるたびに子供達と遊ぶようになっていった。何年か経つうちに桃夫婦の子供は二人目三人目と兄弟ができたため、二人の仲が良好なのだと実感できた。

 

 そんな子供達に、彼らの親が成した偉業を伝えようと、タケルが桃達の戦いを語り始めたのがきっかけだった。

 子供達が怯えないように話を脚色し、夢物語である事にするために架空の主人公「桃石太郎左衛門とうせきたろうざえもん」の話として最初は語っていた。

 子供達はドキドキする様な冒険譚に、皆釘付けになって話を聞いた。

 そこまでは良かったのだが、話が盛り上がってくるとササラが、

「その時、桃がのう。」

 などと実名を出してしまうため、子供達が混乱して、最終的には太郎左衛門たろうざえもんが、「桃太郎」に変わって定着してしまった。

 二人はまあ良いかと割り切り、「桃太郎」をせがまれると、嬉しそうにこの話をするのであった。

 

 子供達は家に帰ってから、両親に自慢げに桃太郎の話をするので、この話の出所に気がついた羽切は、

「全くあの二人は……。」

 と小言を漏らしたが、内心、在りし日の思い出が蘇り、少しだけ涙した。

 すると、その肩を桃が抱き、優しげな眼差しで笑いかける。

 羽切は幸せに包まれながら、子供達にせがまれてわらべ歌を歌う。

 その声を聞きながら、桃も嬉しそうに、手拍子を入れるのだった。


 ………………


 これが、吉備津彦命きびつひこのみことこと、桃という青年の旅の顛末にございます。

 

 桃はその後、壮健に過ごし、一説によると齢二百歳を超えてなお元気であったとか。

 妻と共に、仲睦まじく、末長く暮らしたそうでございます。

 

 時が移ろい、桃の魂が天に帰り、子供達が大人になって巣立って行くと、犬飼健命いぬかいたけるのみこと楽々森彦命ささもりひこのみこともやがて神々の庭に帰り、次第に、神の世界と人の世界は交わらぬものと相成りました。

 

 しかし、子供達が土地の伝承として「桃太郎」の話を子々孫々に語り継ぎますと、旅芸人や絵草紙屋がこの話を耳にいたしまして、皆様のよく知る「桃太郎」のお話は全国各地に広く知れ渡ったわけでございます。

 

 本日は、その元となった伝説を語りまして、この一席、これにて幕にございます。


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