『終末世界で暇つぶし ~自称嫁(AI)と世界再生計画~』
夢路(ゆめじ)
第1話 目覚めた俺と、眠った世界
「どこだ?」
辺りを見渡すと、何もない白い部屋。自分が
入っていたカプセル以外、ただの無機質な空
間だった。
機械的な女性の声が響く。
「おはようございます。コールドスリープ装置
より、生体反応を確認。生命維持機能は最低
ラインで維持されていました。目覚めに成
功、おめでとうございます」
「コールドスリープ?目覚め?悪い、全く状況
が理解できない…」
目覚めた男は辺りを見渡しながら、声が聞こえてきた場所を探す。
「貴方は300年間、深い眠りについていまし
た。この施設は、自動防衛システムと環境維
持装置により最低限の機能を保っていまし
た。私の名は《シンラ》。この施設の管理を
担当するAIです」
300年……300年!?
信じがたいはずなのに、謎の女性の声には不思議な説得力があった。
「今はその情報を信じるしかなさそうだな…恥
ずかしい話だが俺の名前は分かるか?」
いくら考えても自分について何も思い出せず、とりあえず今は謎の声に頼るしかない。
しかもそうすることが、不思議と当たり前であるような気がしてならない。
「記録に残された情報により、貴方の識別コー
ドは『名無し』と記録されています。正式な
名前の記録及び個人情報は消失しました」
「名無しって…ひどすぎない?いっそ名前にし
てやろうかな」
「ナナシですね。記録しました」
冗談を言ってみたものの、AIが理解出来るはずもなく、ナナシで登録されてしまった。
ナナシは諦めたように笑いながら、謎の声に質問した。
「…ところで、おまえはどこにいるんだ?」
「私はこの施設の中枢に存在するAIです。実体
は存在しません。現在、音声通信のみで貴方
と接続しています」
「残念だな。人間もしくは、アンドロイドとか
で物理的に手伝ってくれる存在なら心強かっ
たんだけどな…名前はあるのか?」
「シンラです。森羅万象からつけられました」
「おま…俺の名前に比べて随分立派な名前だ
な」
なんだかバカにされているような気がして見えないシンラを、睨みつけナナシは立ち上がった
それより、とにかく今は——
「腹ペコだ…シンラ、食べものは何処かにある
か?」
「第一補給庫に保存食が保管されています。た
だし、保存状態により風味は保証しかねま
す」
「AIが心配する味って…シンラ、とりあえずそ
こまでの道案内を頼む」
「了解。補給庫までの最短経路を表示します。
注意:現在、施設内近くに“熱源”の反応が一
つあります」
「熱源って…別に珍しい話じゃないだろ。野生
の動物とか?」
「いえ、あなた以外の地球上の生物はほぼ全て
絶滅しました」
シンラがさらっととんでも無いことをいい出した。
「………待て待て待て、今俺以外の生物が絶滅
したとか言ったか?言ってないよな?」
「間違いなく言いました。ただし、98.7%の確
率なので、"ほぼ”ですが」
「このAI、可愛い声してとんでもない情報をさ
らっと言いやがる…」
シンラは頭を抱える。
記憶喪失に、人類絶滅、小説が一本書けそうな内容だ。
「お褒めに預かり光栄です。しかし解析したと
ころナナシの脳波に強い乱れはなく、冷静に
情報を処理されているようですが?」
「そうなんだよ、さっきから俺も不思議に思っ
てる」
「そうでしたか、素晴らしい適性能力です」
「適性能力…適性っていうよりは予見していた
から…みたいな感覚の気がするけどな…
確かめようがないか」
ナナシはダルそうに頭をかき、起きた部屋から食料庫に向かった。
食料庫に向けて歩いている途中、ナナシは基本的な情報を整理していく。
「それで、その熱源ってなんだ?俺以外の生物
はいないんだろ?」
「本来、その通りです。しかし、先ほどから断
続的に熱源と動作音を検知しています。詳細
は不明です」
「……怖っ!まさか幽霊とかじゃないだろう
な」
冗談めかして言いながらも、何故かとても嫌な予感がする。
「シンラ、ついでにもう一つ。…何故人類…生
物は滅んだ?」
「原因は、地球外生命体による大規模侵攻で
す。人類は全ての都市機能を失い、防衛線も
数日で崩壊しました」
「今度は宇宙人かよ…さすがに疲れてきた
わ…」
ナナシは
「体や表情は悲壮感がありますが、またしても
脳波に異常はありません。ナナシは冷静で
す」
シンラが落ち込むナナシに身体情報を伝える。
「ありがとうございますよ…夢でも見てるって
心の何処かで信じてるのかもな」
「その可能性はあります。もしくは、貴方が“受
け入れる強さ”を持っているのかもしれませ
ん」
「どっちでも良いよ、現実は大して変わらな
い。
そういや、他の人はコールドスリープしなか
ったのか?」
「申し訳ございません、それらは個人情報の為
お調べ出来ません」
「個人情報って、俺以外死んでるんだから故人
情報だろ」
「個人情報ですが?」
シンラに伝わらないと分かっている冗談を言ってる自分に悲しくなった。
何処かで自分と同じ人間と繋がりたいと思っているのだろう。
無事保管庫の前にたどり着き、ドアの前にナナシは立っている
「例の謎の生物には会わなかったな」
「はい、何故か途中で信号が消えました。痕跡
もありません」
「何もないのが一番だ、さっさと食料を取って
帰りますか」
ナナシが補給庫のドアに手をかけた、その瞬間——
「警告:施設外壁に圧力異常。外部からの接近
反応。想定外の外部侵入が発生する可能性あ
り」
「……は?まじで言ってる?」
あまりのタイミングの良さにナナシは呆気にとられる。
「はい、時間がありません、ナナシ。今すぐ補
給を終えて、移動準備を。生存確率を最大化
するため、プランBを発動します」
「え?あぁ……」
シンラの声に少し緊張感がはしったような気がする。
そしてそれは、ナナシがAIに抱いている音声イメージとは懸け離れていた。
次の瞬間、施設の奥から、“何か”が施設を叩くような音が響く。
軽く施設全体が揺れたのを感じた。
「人類滅亡、宇宙人とくれば次はこうくるよ
な……」
【シンラデータベース起動】
--------危険感知
--------優先事項を退避に変更
--------一部プログラムに微細な異常を感知
--------原因不明……動作に支障がないと判断
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