第12話 妖怪退治の旅路
八雲の里を出発してから数日が経った。
俺の封印が解けたことを聞きつけた妖怪を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返し、俺たちは旅を続けていた。
今日もちょうど襲ってきた新参妖怪である
血の匂いと、焼けた草の臭いだけが鼻を突く。
「ちっ、つまんねぇ相手だったな……」
倒した妖怪は、俺の封印が解けて弱体化しているなら勝てると踏んだ大バカ野郎だった。
まったく、俺が弱くなったところでお前が強くなったわけじゃないだろうに。
「水浴びってのは物足りねぇよな。いっそ温泉が毎日湧いてくれればいいのに」
戦いの後、体にこびりついた血と煤を洗い流す手段としては、小川での水浴びが常となっていた。
冷たい水では疲れも取れない。
欲を言えば、熱々の湯に浸かってのんびりしたいところだ。
封印が解けたとはいえ、まだ本調子ではない体に、冷水は少し堪える。
「はぁ……ドロドロです……」
木々の奥から、聞き覚えのあるぼやき声がした。
灯凜だ。声の調子からして、また一人でブツブツ言いながら歩いてきたようだ。
俺は木の上に腰をかけ、葉の陰からそっとその様子を眺めた。
森の中、小川のほとり。
彼女はするりと靴を脱ぎ、泥にまみれた制服を脱ぎ捨て、何の躊躇いもなくそのまま、全裸で水へと入っていった。
「……おいおい、マジかよ」
日差しに照らされ、水面のきらめきに映える滑らかな肌。背中から腰、脚まで、どこを取っても美術品のように整っている。
胸のラインも隠すものが何もなく、水の揺らめきで形が浮かび上がるたび、妖力が高まるのを感じる。
「ふむ、封印されてた分のご褒美ってやつだな……」
ちょうどいい。昼飯の前にひとつ、妖力チャージとしゃれこもうじゃないか。
「はぁぁぁ……やっとさっぱりしました――え?」
突然、灯凜がこちらを向いた。
その視線が、ぴたりと俺を捉える。
「煌天丸さん……!」
次の瞬間、水柱が炸裂した。
「い、今、絶対覗いてましたよね! まるっきり、全部、裸をっ!」
全身を濡らしたまま、水からあがってくる灯凜。
顔は真っ赤、口元はわなわなと震えていて、腰に手を当てながらぷるぷるしていた。
「いやいや、なんか気配がしたからな。警戒だ。巡回。妖怪として当然の行動だろ?」
「鼻の下、伸びてましたよね!? 絶対たまたまじゃないですよね!?」
「光の加減だ」
「目線がどストレートに局部だったんですけど!?」
「高度な索敵能力だ。重要な急所を確認していただけだ」
「えっち! 変態! 害獣!」
「妖怪はな。性に素直な生き物なんだ。よってこれは、妖力回復にも繋がる重要な――」
「よーく、わかりました。ほんとうに、よーく……!」
怒りに震えた灯凜は、近くの岩に立てかけてあった神穿ノ禍祓を手に取った。
「このえっちな妖怪さんめぇぇぇ!」
「ちょっ、待て待て! お前裸のまま――あぶねっ!」
神穿ノ禍祓が唸りを上げ、紅い斬撃が木立に走る。
俺は飛び退き、森に一陣の風が吹き荒れた。
雷鳴のような爆発音が、森に幾度も響き渡る。
その日、森に響いたのは雷ではなく、裸で突撃してくる少女の怒りの鉄槌だった。
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