悪魔が来たりて酒を飲む

 

暗闇の中で俺は映像を見ていた。

夢とは何か違う。うまく説明できないが、まるで本来自分の視点で見ている夢を客観的に見ている様な感じだ。

その映像の中で俺は港沿いの歩道を酒の入ったビニール袋片手にとぼとぼと歩いていた。

どうやら、俺の失った記憶の一部の様だ。

新品同然の黒いビジネススーツを着ているにも関わらず、現在の俺が求職中という事は面接に落ちた帰りだろう。

突然、俺は何かから自分を庇う様な動きを見せた。

そしてそのまま…

 

 

 

 

目が覚めると自宅の天井が目に映った。

俺はいつの間にか自宅のソファで寝ていたらしい。

何が起きたんだったか…。確か酒を買いにコンビニに行った筈だ。それから…

 

「良い夢は見れたか?」

 

女の声がした。

声のした方を見るとキッチンでとんでもない美人が俺の冷蔵庫を勝手に漁っていた。

 

「あ、あんたは…」

 

「む、覚えていないのか?あるいはまだ寝ぼけているか…」

 

女は冷蔵庫の中から勝手に缶ビールを取り出すと、プルタブを凝視し無理矢理こじ開けるとぐびぐび飲み出した。

 

「うーむ、当世の酒は不味いな。いや、安物だからか?」

 

「おい、それは俺が買ったんだぞ。」

 

「まぁ、良いでは無いか。私はお前を助けてやったのだし。命の恩人ぞ?」

 

「命の恩人…?」

 

その言葉で思い出した。

昨夜の事。目の前にいる女と化け物みたいな小学生の闘いに巻き込まれて殺されそうになった。

いや、実際死んだ気がする。しかもその後、俺は怪物として生き返り人を殺してしまった。

 

「どうしよう…人を殺しちまった…」

 

「お前がもいだ首の主の事か?あれはミカエルが作り出した傀儡に過ぎない。気にする必要はない。」

 

「っ?…ってか、お前ら何なんだよ!俺は一体どうなっ」

 

「まぁ、一つずつ答えてやるから落ち着け。」

 

「…」

 

女は大量の酒を抱えながらすたすたとこちらに歩いてきて、ソファの前にあるテーブルに俺と対面する形で座った。

 

「我々が何者かと言うと…まぁ、お前達の言葉を借りれば天使…が1番近いかな?」

 

「天使?その割にやけに怪物じみたヴィジュアルだったが。」

 

「まぁ、お前達は何かと自分達に理解出来ないものを美化したがるからな。イコンに描かれた私達の姿なぞあくまでイメージに過ぎんと言う事だ。」

 

「…お前と戦っていた奴。アイツはミカエルって言ってたな。ミカエルってのは俺でも知ってる位有名なやつだ。」

 

「まぁ、地上では人気らしいな。」

 

不愉快そうににそう言うと女は2本目を手にしたので、俺も負けじと缶を手に取りプルタブに指を掛けて開けた。

女は少しだけ眉を動かすと、俺を真似して開けようとしたが上手くいかなかった。

そして、結局また強引にこじ開けた。

 

「不便だな。」女はまた不愉快そうに言った。

 

「元々便利にする為の発明だと思うが。ま、慣れだろう。」俺はちょっと気分が良くなった。

 

「…まぁ良い。さて、お前は一度死んだ訳だが、私が自らの権能を使って生き返らせた。」

 

女は少しだけ意地の悪そうな顔をして言った。

 

「やっぱ…死んだのか、俺…」

 

「…はぁ、何だつまらん奴だな。もう少しいい反応をするかと思ったが。」

 

「生憎だったな。俺はもう既に死んだ様なものだからな。」

 

「ほぅ…と言うと?」

 

「俺はつい最近記憶喪失になったみたいでね。それまでの人生の全てを忘れたってんだから一度死んだも同然さ。」

 

「ふーん、まぁお前の話はどうでも良いや。」

 

自分で反応を示したくせにつまらなさそうにこの女は言った。

 

「話を戻すと私はお前を生き返らせた時にお前の中に眠る因子を目覚めさせた。」

 

「それがあの変身か。ミカエルはネフィリムって呼んでたな。ついでに随分と恨めしそうだったが。」

 

「うん。あれは天界でも曰く付きの代物だからな。まぁお前は血が濃ゆかったんで想定外の力を発揮した訳だ。」

 

「血?あれは遺伝するのか?俺の先祖にもネフィリムが?」

 

「いや、自力で覚醒する事はまずあり得ない。全く無いとは言い切れないが。」

 

俺は3本目のプルタブに苦戦する女を見ながら聞いてみた。

 

「ミカエルは殺して良い方って言ってたが、お前らの目的は俺みたいなネフィリムに覚醒する可能性がある奴を殺す事なのか?」

 

女はチラリと俺を見るとニヤッとしながら言った。

 

「彼らはそうだが、私の目的は違う。私の目的はネフィリムの血を継ぐ者を守る事。」

 

「じゃああんたは神の教えに背いたのか?それで奴らに狙われてるのか。」

 

「そうだ。私の名は“光を掲げる者”。お前達の言葉ではルシファーと言う。」

 

黒い長髪をかき上げながら女はそう言った。

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