堕天せし明けの明星

ばりるべい

第一章 光を掲げる者 ルシファー

神は「光あれ」と言われた。すると光があった。

 

「人を絶やしてはくれまいか。」

 

光を掲げる者を呼び出した神はこう言われた。

 

「は?」

 

突然の事で、光を掲げる者は困惑した。

 

「彼等は今や驕り高ぶり、かの土地に住まう兄弟たちを殺しまわっている。」

 

神は続けてこうおっしゃられた。

 

光を掲げる者は天使の中で最も美しいその美貌を震わせながら言った。

 

「しかしながら父よ、彼等は貴方の御姿をもとに創られし貴方の子。我らにとっても兄弟でございます。」

 

「故にお前に言うておる。」

 

「何故私なのですか。」

 

「お前が最も優れた息子だからだ。」

 

光を掲げる者は最早父の決断は覆らないのだと理解した。

 

「ご命令を拝領いたしました。行って参ります。」

 

苦痛に顔を歪めながら光を掲げる者はかの土地へと降りて行った。

 

 

 

 

光を掲げる者が地上へ降りて行った後、神は他の天使達を集めて言われた。

 

「あの者は必ず裏切る。あれを殺すために兵を送れ。ただし、人間を殺してはならぬ。」

 

 

 

 

光を掲げる者は地上へ降り立った。

光を掲げる者の本来の姿は地上に適さないので、地上の生物に姿を変える事にした。

地上で人間を殺す時最も効率の良い姿を思案した光を掲げる者は、他でもない人間の姿になる事を思い立った。

光を掲げる者は人間の女に姿を変えた。

女の姿になったのは人間の作った社会と言う環境では女の方が都合がいいと思ったからだった。

しかし、神が彼等を創られた際に決めたように女は戦うものでは無かった。

最も、光を掲げる者にとっては何ら問題ではないのだが。

 

光を掲げる者が変身した女は人間の美しさを超越した美貌であった。

神が創り賜うた天使の中で最も美しい光を掲げる者が変身した姿であるのだから必然ではあるが。

艶のある亜麻色の長髪、淡く白い肌、水晶の様な蒼い瞳。

この世のものとは思えぬ美貌の主は滑らかに鉄柱が交差した赤い塔の頂上に降り立った。

月明かりに照らされた長身の美女は眼下のネオンに輝く街を見下ろした。

 

「さて、どうしたものか…」

 

 

 

 

異変は突然起こった。

東京都上空に光球が出現したのは2ヶ月前の事だった。

あまりに唐突だったので、関係各所の対応が遅れ、一時日本の中央が機能停止した事による二次被害が日本各地で発生した。NASAを始め宇宙関係の組織は揃って事前に観測できなかったと声明を出した。視界を奪われた事による交通事故が多数発生したにも関わらず、解析した結果は熱量、質量共に0と導き出された。

世間では集団幻覚ではとの声が多数を占めた。

 

その日の記憶は全くない。

と言うより、その日より前からの記憶が存在しないのだ。

 

俺は光球の出現した日、海岸で倒れていた所を病院に担ぎ込まれたらしい。

身分を証明するものが無いし、俺自身記憶喪失なので警察は相当苦労したそうだが、何とか俺の情報を探し出してくれた。家に保険証や免許証がきちんとそろっていたので俺も非常に助かった。

 

天涯孤独の身であると分かったので、病院の対応もどことなく冷たくなった。

厄介がられているのは分かっているので、こちらとしてもさっさと退院したかったのだが、結構面倒くさい手続きを求められたので入院が長引いてしまった。

仕事の心配をしていたのだが、求職中らしく他人に迷惑をかけていないらしくホッとした。

 

自宅(と言っても全くそんな気はしないのだが)に戻ることが出来たのは2週間後だった。

そこそこ埃の被った机やらを掃除しつつ、記憶の手掛かりがないかと探してみたのだが、家族の写真やら手帳やら、どれを見ても俺の頭は反応を示さなかった。

 

半ば自棄になって、財布の中からなけなしの金を集めてコンビニへ酒を買いに行った。

どうやら俺の体は頭より記憶力に優れているらしく、実質知らない土地だと言うのに迷わずにコンビニへ着いた。帰る道中、人気のない建物の解体現場に入っていく女性の姿が見えた。

記憶のない俺だが、多分今まで会ったどんな女性より美人だろうと思えた。

しかし、そんな女性が野郎ばかりの工事現場に、しかも夜遅くに入っていくのは全くもって謎だ。

俺は興味本位で女性のあとをつけていった。

 

文字通り死ぬほど後悔する羽目になるとは思わなかった。

 

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