裏切りの最適解

シロノとその弟子

第1話:さようならブラック企業こんにちは戦国時代

「……部長、今の話、もう一度だけ整理させてもらっていいですか?」


笑顔だった。表面上は。

だが、内心では「帰らせてくれ」「殺す気か」の言葉しか浮かんでいなかった。


「気合だよ、気合! やるしかない、な?」 肩を叩いてくる上司の顔が、なぜか戦国武将の絵と重なって見えた。 理不尽、ワンマン、根性論。三拍子そろった“名将”である。 まさに俺(城崎湊)の人生のラスボス。いや、ただのク◯部長だ。


——気づけば深夜1時。空調も切れたオフィスに、キーボードの打鍵音だけが響く。


「よし……資料、完成……」


立ち上がると、世界がぐらりと傾いた。 頭が痛い。吐き気もする。これはヤバい。


(ダメだ……今日はタクシーで……)


意識が朦朧とする中、俺はふらふらとビルのエントランスを出た。 外気がひんやりと肌を刺す。スマホを取り出すと、日付が変わっていた。


——12月22日。俺の誕生日だ。


(あはは……誰も祝ってねぇ)


家族からも、同僚からも、LINEは一通も来ていなかった。


“まあそんなもんか”って笑おうとしたけど、

声は出なかった。


(俺、何やってたんだろうな……ただ、命削って、言われるまま働いて……)


(こんな終わり方、嫌だ……もう一度、やり直せるなら——)


その瞬間だった。


——白い光が、世界を塗り替えた。


眩しさと同時に、重く冷たい空気が肌を切る。


「っ……!?」


目を開けた瞬間、目の前には、甲冑姿の男たちが刀を振り回していた。


土の匂い。血の匂い。怒号と悲鳴が飛び交う。


俺は……俺はなんで、こんなとこに——


「木曽義昌様! ご無事ですか!」


誰かがそう叫んだ。


え、誰? 木曽——なに?


次の瞬間、頭の中に、焼きつけられるような言葉が響いた。


——我が名は、木曽義昌。 裏切り者と呼ばれた、小国の武将である。


(待て待て!!ふざけんな!“クソみたいな現代”の次は、“クソみたいな戦国時代”かよ!)

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