第19話
「古谷さんっ~」
「わ、泣かない泣かない雪ちゃん」
「うっ…私こそっ、感謝してもしきれなくてっ」
「ふふっ、わかってるから。雪ちゃん絶対風邪で涙もろくなってる」
古谷さんの温かさを全身で感じた。
私は1人で頑張ってるわけじゃなかった。
わかっていると思っていたけど、本当は言葉にしてもらわないと不安だったのかもしれない。
だから今こんなに、涙になって流れてくる。
嬉しさがあふれ出してくる。
これまでやってきたことのすべては、きっと正解ばかりじゃないだろうけど、
きっとすべてが…間違っていたわけでもないはずだ。
――“だって1人じゃ平気じゃないんでしょ?”
もう……十分だ。
――私は一通り古谷さんにお礼を言って頭を下げて、店を後にした。
「けほっけほっ…」
11月。
外はどんどん寒さに向かって進んでいる。
夜は特に冷え込む。
「けほっ…ごほっ」
やばい、風邪が本格化してきた。
喉も痛い。
私はポケットに手をつっこんで早歩きで家へ向かった。
家までは歩いて20分。
だんだん意識が朦朧としてくると、ポケットの中の手に触れていた携帯が震えた。
そこには“吉倉彼方”の名前が表示されていた。
迷わずその電話にでる。
「はい」
『おつカレーライス』
「ふっ、だからそれ古いって」
『今どこ?』
「帰ってるとこ」
『今日早いじゃんか』
「たまにはねー」
彼方と話すのはとても久しぶりなような気がした。
橋本さんを撮影したきりだから、多分1ヶ月ぶりくらい。
それにあの日はほとんど個人的な会話はしなかったから、こんな風に話すのはもっと久しぶりだ。
そりゃそうだよね。
私たちは、もう別れてるんだから。
それなのになんで電話して来るんだこの人。
『てかなんで雪路撮影こないの?』
「ありがたいことに最近指名が多くて」
それだけじゃないけれど、彼方には言えない。
『町田君…だっけ?あの子雪路より駄目』
「ちょっと厳しくしないでよー。町田君へたれそうに見えて意外と人気スタイリストなんだからね」
『俺のスパルタに耐えられるのは雪路だけだと思ってるよ』
「よく言うっ…」
嬉しいけど、ちょっと切ない。
こんな会話は…これから先、きっともっと少なくなっていくんだろう。
「ねぇ彼方」
『ん?』
「あんまり…厳しくしないであげてね」
『さっきも聞いたよ』
「私…、もう撮影辞めようと思ってるから」
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