15

 翌朝。


 叶省吾が、日課である朝食後の調整を自室で行っているときのことだった。


「入るぞ」


 日色兄弟の兄、響がやってきた。後には、弟の奏も一緒だ。


「昨日は遅くなったから、お前を連れて行かなかったが、良篠から手空きの《要》は客人に挨拶をするように指示をされている。これから俺達も朝の挨拶をしに行くところだから、ついてこい」


 省吾は流れる汗をぬぐいながら、響をいぶかしむように見た。


「何も特別なことではありませんよ。珠子様のお客人として非公式でのご来邸ではありますが、非公式だからこそ時間が取れる、ということなので」


 この二人はなにかを企んでいる。そう、省吾は直感した。


 いつもは拠ると触るとケンカばかりしている日色兄弟が、揃って何かをしているときは、必ず思惑がある、そう省吾は考えている。


 しかし、別段、断る理由もなく、これはついて行く他はなかった。


「すぐ支度をします。少しお待ちを」


 九曜に対する反逆の意志や、後ろ暗い活動は一切していない以上、このまま弾劾裁判にかけられる訳ではなさそうだ。


 次に考えたのは、昨夜の静音のことだ。あの場では、知らぬ存ぜぬを通したが、省吾自身が《神木十家》の出身であることはすぐに判明するだろう。


――もし、尻尾を捕まれたら、あのときは一瞬で気づかなかったことにしよう。


 今後の方針がまとまったところで、省吾は部屋を出た。部屋の外では、日色兄弟が待っていて、二人に挟まれるような形で歩き出す。


――これじゃ、連行だな。


 省吾は内心苦笑する。この二人と戦闘力が劣るつもりはないが、二対一では、まず勝ち目はないだろう。


「何か?」


 その様子に気づいた響が、省吾に問う。


「いえ、別に。今回ご挨拶するのは、どちらの方なんですか?」


「昨夜お会いしただろう。《柊》の《神木の巫女》、柊 静音さんだ」


 やはり、と省吾は思った。


 昨夜、シャワー室から道場へ出たときには姿がなかったから、目の錯覚かと考えたのだが、やはり違うという事がわかった。


「なるほど。やはり《神木の巫女》の方でしたか。気配が我々能力者とは微妙に違うと思いました」


 省吾は言葉を選ぶ。嘘ではない、事実を繋げ、真実を気取られぬように。


「柊の《神木の巫女》ならば、お会いしたことがありますよ。昨夜の『面識がない』というのは、撤回します」


 何でもないことのように、省吾は響に話す。


「とはいえ彼女が《神木の巫女》に就任する前の話ですが」


「なるほど。お前と面識はある、ということで間違いはないな」


「ええ。あちらが覚えているかはわかりませんが。……もう二十年近く前の話なので」


 高校時代の静音との交流を知るものは、白河だけだ。しかし、この件の詮議が白河にまで及ぶことはないと省吾は判断する。


「……つじつまは合っているな」


 響は、そうとだけ言って、後は無言になった。話ながら賓客の部屋を訪れるのは不作法であることが一つ。もう一つは、いとも簡単に省吾が静音との関係を吐いたことに、不自然さを感じ、その内容を吟味していたのだ。


――まぁ、静音殿に会わせれば、何か見えてくるだろう。


 そして不審の答えは、すぐに出ることになった。


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