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 食堂を出た省吾は、人目に付かない場所を選び、人払いの結界を張ってから、筒井たちから没収した写真を見た。


 間違いなく、柊静音だった。見間違えるはずがなかった。


 盗撮故にカメラの方を向いている写真は一枚もなかったが、ピントはちゃんと合っていた。


 制服姿の静音。


 体操着姿の静音。


 琴を、茶室とおぼしき場所で弾いている静音。


 エプロンをつけて、友だちと一緒に笑っている静音。


 静音は、少しも変わっていなかった。


 変わっていたことは、一つだけあった。


 想像を超えて美人に――しかも省吾の好みのどストライクに――育っていたことだった。


 自分を落ち着かせるために、省吾はわざとらしいため息をついた。


――落ち着け、自分。とにかく落ち着け。静音がどんなに可愛く綺麗に育ったとしても、俺の嫁になることは無いんだ。


 自分に言い聞かせてから、今度はやるせない気持ちになる。


――これは反則だよなぁ。


 ずっと意識してきたけれど、絶対に自分から触れようとは思わなかった存在。


 思い描いても、写真だけは絶対に手にしようとは思わなかった存在。


 想像の中の静音なら、八歳で止まっていた。それより先の彼女を想像ができなかったから、静音は省吾の中で甘酸っぱい思い出の存在になりつつあった。


 それが、この写真である。


 写真の中の静音は、充分に女の子で……恋愛対象だ。


 省吾とて、朴念仁ではないから、色恋について色々と考えることもある。感心がないわけではない。綺麗な女性を見るのも、この年齢の男子に相応にキライではない。


 だが、この写真の少女が、静音なのだ。


 もう、八歳の静音を思うことはできない。


 純粋な子どもの頃の「好き」と、男としての「恋情」とは、どうしてこうまで違ってしまうのか。それが、省吾には恨めしかった。



 

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