第9話 こわす


静まり返った夜の街。

理人は、片桐の車の助手席に座り、じっと前を見つめていた。


 


「蓮は、まだ見つかってない」


 


片桐の言葉に、理人は小さく頷く。


 


「……分かってる。

でも、あの声が言ってた。

“次のプレゼント”は、今日、僕に届くって」


 


片桐は、ハンドルを握りしめながら言った。


 


「なあ理人、

お前、どうするつもりなんだ?

犯人が誰だろうと、もう――引き返せなくなるぞ」


 


理人は、片桐の方を見ずに答えた。


 


「………さぁ?。

どうなるかな。

犯人も、自分も、何もかも」


 


片桐は言葉を失った。



廃ビルの一室。

そこに、蓮はいた。

目隠しをされ、椅子に縛られて。


 


「……うん、大丈夫。

僕が来るって、分かってたでしょ?」


 


理人は、ゆっくりと蓮の前に立つ。


 


「ごめんね。ちょっとだけ遅れた」


 


蓮は、涙を流しながら、声を震わせた。


 


「り……理人……!」


 


その瞬間、天井からスピーカーの音が鳴り響く。


 


「リヒトくん。

君は、本当に“特別”だよ。

君のために、用意したんだ――

君が、僕を“壊す”ための、最高の舞台をね」



理人は、スピーカーを見上げて、静かに笑った。


 


「……分かったよ。

だったら――

ここで、お前を壊す」



片桐が駆けつけた時、理人はすでに動き出していた。

スピーカーの線を引きちぎり、部屋の奥へ進んでいく。


 


「理人!!やめろ!!

もう十分だ――お前はなにもするな!!」


 


理人は、振り返らずに言った。


 


「ありがとう、片桐さん。

でも――僕、もう決めたんだ。

“壊す”って」



■第9話「こわす」 完!!!


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