第2話 新たな初めての生き物と若返り

「何だよこれ……」


 うん、そりゃあ、おかしいとは思っていたよ。作業をしている自分の手を見た時、ずいぶんシワのない、ハリがある手だな? しかもあれだけ仕事と寒さのせいで荒れていたのに、その荒れ消えてるし、おかしいなぁ、てさ。


 それに着ている洋服もスーツじゃなくて、ライトノベルで若い主人公が着ているみたいな洋服だったし。履いている靴も、通勤用の運動靴じゃなく、これまた若い主人公が履いていそうな、ブーツみたいな靴だったし。


 それから周りを調べていた時、いつもと見ている風景がなんか違うなぁ。この木の感じだと、この辺に目線がくるはずなんだけど。

 何で今日は周りの物が大きく見えるんだ? もしかしたら俺は普通で、この場所がおかしいのか? 地球じゃないしなぁ、たぶん? なんて思っていたよ。


 でもまさか、綺麗な湖に映る自分の姿が、俺の知っている俺の姿と、全く変わっているなんて思わなかった。


 くたびれ、目の下のは濃いくまがあり、同僚からは生気がない顔とまで言われていた、疲れ切っていた俺の姿はそこにはなく。

 今湖に映っているのは、14、15歳くらいで、顔色もすこぶる良く、ピチピチした肌で、イケメンって感じの子供だったんだ。


 森を歩き始めてからどれくらい経ったのか。1時間か1時間30分くらいだとは思うけど。俺は運の良い事に、それなりに大きな湖を発見することができた。


 が、すぐには湖には近づかずに、木の影に隠れ湖の様子を見ていた俺。もしかしたら、危険な生き物がいるかもしれないと思ったからだ。

 しかし、もともと湖にいた先客は、見たことのない生き物だったが、危険な生き物には思えず。他にも生き物が来る様子はなかったため、俺はそっと湖に近づいた。


 そうして近づいた瞬間、湖の周りに生えていた木の根っこに躓き、思い切りすっ転んだ俺。まさかの1回転するっていう。

 いててと頭を押さえながら起き上がれば、先客の生き物は、ウサギに似ている生き物達の群れだったんだけど、そのウサギ似の生き物達が。何だこいつ、なんで転がってるんだ? という風に俺を見てきたよ。


 何とも言えない気持ちになりながら、そしてウサギ似の生き物にジッと見られながら、そっと湖に近づいた俺。

 その生き物が湖の水を飲んでいたから、とりあえずは触れることはできるか? と。とても澄んでる、綺麗な湖を覗き込んだんだ。そうしたら湖に映った自分の姿を見て、驚く事になった。

 

「これもあれか? ライトノベルあるあるか? 転生だか転移だかして、気づけば若返ってるっていう。しかもなかなかのイケメンに。うん、イケメンだな」


 そう、異世界転移や転生に、イケメンは大切な要素だ。


「まぁ、うん、イケメンで良かった。って、今はそれはおいといて。これってやっぱり異世界転移ってやつだよなぁ。ちゃんと痛みとか匂いとか、風も感じるし。間違いないよなぁ。あれか、やっぱりあの魔法陣みたいなのが原因か」


 俺がさっきからライトノベル、転生、転移と言っているのは。俺の今の状況が、ライトノベルに良くある、異世界転移の話しと同じ感じだったからだ。


 俺がこの森で目を覚ます前。俺はいつも通り残業を終え、何とか終電前に会社を出ることができ。最寄駅に着いてからは、夜遅くでも空いているペットショップに寄った。


 俺の住んでいるマンションのお隣さんが飼っている、猫にミーちゃんのために、猫のおもちゃを買ったんだ。ついでの可愛いもふもふの素材でできている、シマエナガのポーチも買ったよ。


 そうして買い物が終われば、残業で疲れていたけれど、明日の休みはミーちゃんと遊べると、足取り軽くマンションまでの道のりを歩き始め。


 しかしマンションまでもう少し、というところでそれは起こった。いきなり俺の足元に魔法陣のような物が現れたかと思うと、それが眩しく光り始め。俺はすぐにそこから逃げようとしたけれど、なぜか動くことができず。


 バタバタしているうちに、魔法陣全体が光り輝き、目を開けていられずに目を瞑った俺。気がついた時には、この森の中に倒れていたんだ。


 何が起こったのか、全く分からなかった俺は。とりあえず周りを見て、空を見てみれば。植物の事は良く知らないから、それが地球にある植物かは分からなかったが。空には太陽みたいな物が2つも浮かんでいて。


 それに空を見ていた時に、サイズ的にかなりの大きさの、飛行生物が飛んでいてさ。何ていうかドラゴン? みたいな生き物がさ、飛んでいたんだよ。


 そこで俺はここが地球ではないって、もしかしたらライトノベルの異世界転生と同じ事が起こった? と考えた。


 そして湖での出来事だ。ウサギに似ている生き物の群れがいるって言ったろう? 姿はもふもふ、もこもこのウサギなのに、背中に羽が生えていたんだ。で、俺の若返りだろう?


 だからこれはもう、ほぼ間違いなく、異世界転移か転生で間違いないと思ったんだ。


「まじかあぁぁぁ」


 俺はその場にどさっと座った。まさか本当に、こんなライトノベルのような事が起きるなんて。ここがどういう場所なのか、どんな世界なのか知らないけど。俺、ここでやっていけるのか? いや、その前に、この世界に人はいるのか? 


 何とか湖は見つけたのは良いけれど、これからどうしたら良いんだよ。俺はそのままごろっと仰向けに寝転がる。空を見れば、あいかわらずの2つの太陽だし。


 考えなくちゃいけない事がいろいろあるけれど、思わず現実逃避して、空を見続ける俺。そんな時だった。今まで静かに水を飲んだり、草を食べていた羽根つきウサギ(仮)が、急にキュイキュイ鳴き声を上げ始めたんだ。


 それはどう考えても緊張している鳴き声で。俺は考えるのを一旦やめると、すぐに羽根つきウサギ(仮)の方を見た。

 羽根つきウサギ(仮)達は全員毛を逆立て、湖の方ではなく、木々が生えている方を見ながら鳴いていた。足をバシバシと鳴らしている奴もいる。


 何だ? 羽根つきウサギ(仮)の様子に、俺も同じ方を見て警戒態勢をとる。するとそれはすぐだった。羽根つきウサギ(仮)達が見ていた方から、地球のライオンみたいな生き物が現れたんだ。大きさが3倍大きなな。

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