前衛で稼げなくなった世界の片隅で【旧版】

斎賀 久遠

第1話:#前衛やめとけ

魔物は朝から絶好調だ。


今回のパーティーは、前衛が俺ひとり。残り五人は全員後衛職。

おかげで俺の体力なんざ、昨日の残りカスで始業してるってのに。


突進してくる巨体を、反射で盾で受け止めた。

衝撃で腕が痺れる。剣を構え直す余裕なんて、あるわけがない。


「前衛、ヘイト維持。あと二分、俺の詠唱が通るまで耐えてくれ」


後ろから、PTリーダーの冷静な声が飛んでくる。

その口調は明瞭で、どこか余裕すら感じる。もちろん、一番安全な位置からだ。


「補助魔法?いやー、俺もう魔力カツカツでさ~」

「ごめんね~、あとでちゃんと回復するから~」


ニコニコ顔の補助役と回復役。

浮かんでるのは、“愛想笑い”という名の業務報告。


俺の目の前では、牙を剥いた魔物が三体暴れてる。

背後には、詠唱に集中する上級職と、申し訳程度の笑顔を貼りつけた支援職たち。


間にいる俺だけが、“耐える”という名の地獄に立たされている。


盾がきしむ音。剣から伝わる、折れかけの感触。

腕も脚も、もう限界だと悲鳴を上げている。


息も絶え絶えの中、俺は叫ぶ。


「マジで限界だ!あとは頼んだッ!」


剣が重い。盾が歪む。

足元のぬかるみに踏ん張るたび、靴がズブズブと沈んでいく。

体なんて、とっくに壊れかけてる。


「あと30秒!耐えて!詠唱中!」


リーダーの声が響いた。

でも次の瞬間、オオトカゲの爪が――もろに、俺の脇腹を裂いた。


俺の視界がブレる。音が消える。

体が、倒れていく。

脇腹から何かが流れてるのがわかる。けど、もう感覚が追いつかない。


そのとき――背後から、誰かの声が聞こえた気がした。


「うわ、マジで前衛職キツくね?」

「ってか、あれ耐えんの無理じゃない?」


……最後に聞いた言葉が、それかよ。


オオトカゲの頭が吹き飛んだような気がした。

でももう、俺の視界は真っ黒だった。

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