全ての戦いはマドレーヌに通ず
飯田沢うま男
勇者の心の闇
第1話 勇者としての覚悟
かつて平和と繁栄に満ちていた王国に、突如として暗雲が立ち込めたのは十年前のことだった。突如として現れた魔王・カインとその配下の魔物たちは、瞬く間に辺境の地を蹂躙し、王国の守りの要である聖騎士団ですらその勢いを止めることができなかった。人々は怯え、王都ですら闇の気配に包まれる日が増えていった。
そんな絶望の中、神託の神殿に一筋の光が差した。神の加護を受けし“勇者”が選ばれたのだ。剣術と魔法の才に恵まれた青年・レイ──選ばれし者として育てられた彼は、数年の修行を経て、ついにカインを倒すべく旅立った。
道中、彼は幾度も魔物との戦いをくぐり抜け、仲間と出会い、そして別れも経験した。仲間の多くは騎士団を失った王国の民を守るため、各地に残った。最終決戦は、勇者ひとりで挑む運命だった。
そして今、レイはついに魔王城の深奥、玉座の間へと足を踏み入れた。
高くそびえる黒き柱と、重苦しい空気に包まれたその空間。壁にはいくつもの魔法陣が浮かび、炎のように揺らめいていた。床には古の言葉で刻まれた呪文がまるで血のように赤く輝いている。
レイは、震えそうになる足をぐっと踏みしめた。恐怖はあった。だが、それ以上にこの戦いを終わらせなければならないという覚悟が、彼の心を支えていた。
「ここまで来た……もう迷う理由はない」
そのとき、玉座の影から黒きマントを翻し、一人の男が立ち上がる。
魔王カイン──禍々しい気配を纏いながらも、その姿は人間とそう変わらない。しかしその瞳には、底知れぬ力と圧倒的な威圧感が宿っていた。
「ふむ……ようやく来たか。貴様が今回の勇者か。見た目からして……期待外れだな」
レイが剣の柄を握る手に力を込めると、カインはゆったりと微笑んだ。
「命が惜しくば立ち去るがいい。我とて、無駄な殺生は好まぬ。」
その言葉に、レイの中で何かが弾ける。
「黙れ! 俺はここまで、幾つもの命と想いを背負って来たんだ! ここで退くわけにはいかない……!」
青白い光が彼の剣に宿る。神の加護が、レイの意志に応えるように輝きを放った。
カインの笑みが、ほんの僅かに鋭さを増す。
「そうか……ならば、見せてもらおう。勇者の覚悟とやらをな……」
激突の直前、空気が重く、静寂に包まれる。
剣と魔法、命と運命を賭けた戦いが、今始まろうとしていた──。
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