第3話

 所変わりまして、しんぶつとはえんかりも程遠い、いろぢゃとは気楽なもの。若い男に仕事を放り投げては、まえは若い娘としっぽりと、というものですから、おおだなあるじとは大層恵まれたきょうぐうでございまして。まあ、にんそくよせなどというものが大々的にございましたから、今と違って日雇い労働者も多い訳で、「よいしの金は持たない」なんてやからが持てはやされる時代でございました。そういった調子でしたから、仕事もしないで昼間から酒をらっている奴なんて、そこらじゅうに転がっている始末。だんしゅうというものは客としては上の上。特上を超えて、まさに神様仏様でございました。


 そんなこんなで、相手がおおだなの主人とあっては、全くと言って良い程にたいぐうが違います。かみになれればたま輿こしめかけまりも大繁盛。と、まあ、こういうところの男女の仲というのは実に現金なものでございまして、小娘達も我先にと寄って来るはで、りの選び放題なのでございます。


 「おだてられれば木に上る」というのは本当の事でございまして、あかしゅじんもその一人。気になる娘を手当たり次第に呼びつけて選びに選んでは、何ともいやらしいはなしではございますが、じっくりねっとりと見定めて、一人に絞り込んでは、ことほかげておりました。


色茶屋の小娘:「だん、私をけしてくれはございませんでしょうか。他の男の物になるのは、つらくて仕方がございません」


 いくいくかよって来るものですから、もちろん、店の娘も期待はふくらむものでございまして、しょうばいがら、嫌でも食べる為には仕事を選ぶ事が出来ない訳でございます。誰かとしゅうげんでもげまして、せまながらしでも、今よりいくらかばかりは幸せであると、何ともわいそうな身分でございますよ。そんな気持ちを知ってか知らずか、しこたま飲んで飲まされ気分の良くなった御主人は、小娘の胸元にすっと手を回すと、


赤城屋主人:「、当然ですとも。このあかそう、金の事ならぞうぞう、任せておいておくんなましって」


 と、まあ、こんな感じで、事はどんどん複雑な方向へ複雑な方向へと流れていってしまいました。


 最終的には、


色茶屋の小娘:「おおだん様、私をかみさんにしてくださるの?」


 なんて、言い始める始末。すると、主人も調子に乗って、


赤城屋主人:「この世の皆様のご要望を叶えるのがあきんどでございますよ。女の一人や二人を幸せに出来ずに、何があきんどですか」


 と、鼻の下を伸ばしきって、自信満々のしたり顔。


 しかし、大丈夫なのでしょうかね、この様な事を言ってしまって。まあ、おくがたは居ないは、酒は手伝うはで、いろぢゃの小娘に手を出してしまったのだから仕方がない。言わずと知れたぜにですから、金の方は何とかめん出来るとして、問題はかみさん。いつも尻にかれているものですから、こう、ついつい思い詰めた方向に考えてしまう。


 けれども、意外とに商売にはげんできた性分が邪魔をして、人をあやめる覚悟は持ち合わせていない。それならば、自分だけていであるのが悪いという事で、店の若いのを二三人程つくろってはかみあてがって、逢い引きの証拠をつかんでしまえばこちの物と、何とまあ、そくで汚い算段を立てた次第でございます。

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