第4話 神様(仮)と会話する野村
~2046年12月24日 夜の回顧 続き~
「とにかく今の会話であなたがモブの野村ではなく、記憶を取り戻した野村であることが分かったわ」
「結婚する話でですか?」
「ち、違うわよ、モブではありえない会話だったからよ」
この神様(仮)の言う通り、私は記憶を無事に取り戻したようだ。今では脳内が正常に動作し自由に思考できる感覚がある。
「まさか、あごの白髭を抜いて発見できるとはね、人生ほんと何がきっかけになるか分からないものね」、と神様(仮)は呆れたように語る。
「いやー、自分も驚きました。白髭を抜いた直後の激痛、二度と経験したくないですね。知識がなだれこんでくる不快感、容量限界の脳が拒否反応を起こしている感じがもうなんかね、色々無理でした。自分のこの世界へ転生する前の記憶、神様(仮)と深夜テンションで決めたスキルとかこの世界の設定とかだけだったら、なんとかなった感あるんですけど、神様(仮)から送られてきたチャットログも一気に来たのがマジで応えました。てか、激痛の8割くらいチャットの情報量のせいだと思うんですが。神様(仮)が軽い女ではないってことが、記憶取り戻してすぐに理解したことの1つです」
「言っておくけど毎日チャットしたいって言ったのはあなたもだからね、同罪だからね」
「神様(仮)ちゃんと同じカルマを背負うの気持ちいいです」
「うわぁ、あなたそういう人だったわね、思い出してきたわ」
なにを隠そう「神様(仮)との個別チャットルーム♡」という命名は私、転生前の野村がしたのだ。
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「でも結局、なんで記憶が戻ったんですかね。てか自分、キャラメイクとか神様(仮)も一緒になってくれて決めたのなに、なんでモブキャラに転生したんです?」
私は疑問をぶつけてみた。
「それについては詳しく調査してみないと分からないことも多いけど、とりあえず今わかっていることを教えてあげるわ」
「はい、お願いします」
私たちは本殿の奥に座ったところで神様(仮)が口を開いた。
「今回記憶を取り戻した件についてなんだけど、これは幸か不幸か…まあ、あなたにとっては幸運ね。いわゆる『バグ』が発生したおかげと言えるわ」
「あなたも既に記憶を取り戻して気付いていると思うけど、この世界はあなたが転生前にプレーしていたフルダイブ型オープンワールドVRMMO『アルカディア・モンスター~終焉のファイナルラスト~』のゲームに酷似した世界ね。酷似したというか、どちらが先にあったかというか、そういうことは少しややこしいから、とりあえず後回し。とにかく、ゲーム的な世界ということは理解してもらえているわね」
「はい、『アルモン』の世界で間違いないことは理解しています。ちなみに、いまさらですけど『終焉のファイナルラスト』って意味のダブり結構きついですよね」
「廃人レベルでやりこんだゲームの名前に対して、いまさらよく言えるわね。そんなことより『バグ』の話。『アルモン』の最大の特徴はあなたが一番分かっていると思うけど、日本の地理にそっくりなフィールドを自由に行動できることね。現代日本風のマップを隅々まで移動することができ、なによりすごいのはプレイヤー以外のNPCとリアルな人間と同じように会話や行動をともにできることね。NPCはプレイヤーがいない場所でも日常を送っていて、彼らはまるで生きているように見える。ゲーム開発者が解き放った『理論上はありえない』という言葉は有名ね」
「量子力学がどうだこうだとか、ナマズの脳みそが運営しているとかいないとかいろんな説がありましたね」
「そうした謎技術が詰まったゲームではあるんだけど、やはりリソースは無限に見えても無限ではないわけで、当然様々なやりくりをしているわけなんだけど、ここで重要なのが、このいまあなたが転生している世界の構造が『アルモン』と一緒ということね。つまりあなたがNPCの中でも重要キャラでもなく、ただのモブの野村として行動していたように、一見は普通に見えるが『モブ』はしっかりと調整されて行動をしているの」
私は過去を振り返りながら、行動の消極性、記憶の断片性に対してのエビデンスが積み上がっていることに満足感とともに少し寂しさを感じる。
「つまり、父親・母親を含めて野村家はモブ一家で行動も思考も極端に少なかったてことですね」
神様(仮)は、この発言になにかを感じたのか少し柔らかく悲しげな表情を浮かべ立ち上がり、私のほうを見ずに語るのだった。
「そういうことね。あとね、あなたたちモブは使いまわされてもいるのよ」
私は予想を超えた神様(仮)の発言に生唾を飲み込んだ。
「ねえ、いま私の生足みて生唾を飲んだでしょ?」
「違います(違くはない)」
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