第14話 萌ちゃんは可愛い凪の親友らしい

《桐生家 士郎の部屋》


「しかし。なんで、あの娘は小鳥遊さんの事が話せないって言ったんだろうか?」



(話せない?)

(そう。それはあの娘がちゃんと自分自身の口から言うのが正解だもの……それじゃあ。ボクはそろそろ行くね。少しだけど話せて良かったよ。柊の彼氏君。バイバイ~)


 西蓮寺さいれんじもえさんはそう言うと。R18指定のコーナーへ、スゥーと入って行った。


(あの娘。学校の制服で入っていたけど大丈夫なのか? つうかR18コーナーに入って……今のは見なかった事にして忘れよう。関わるとまた変な間違いが起こるしな)



 そして、現在。俺は本屋で買ってきたフリーレインの最新刊を読みながら、西蓮寺さいれんじさんとの会話を思い出していた。


「……スンッ……あー、今回も感動させてもらったわ。フリーレイン。ありがとう。後で凛にも貸してやるかな」


 最近は、小鳥遊たかなしさんや凪との事で色々と起こり過ぎていたが。今日は昼以外はへいわだったな。


「しかし、昼のあれは少しやりすぎだか? いやいや。小鳥遊さんにはあれ以上の事をされているんだから、あれくらいやり返したって文句は言われまい……」


 俺が1人で自問自答を繰り返して。ボーッとしている時、俺の部屋の扉が無遠慮むえんりょに部屋の外側から開け放たれた。


ガチャッ!


「士郎! あの本屋の出来事はどういう事なのぉ?」

「……スクープ。スクープ。パシャパシャ」


 扉を勢い良く開けて、幼馴染みの凪とご近所のナツが現れた。


「凪とナツ? 何でお前等がここに入って来れるんだ? 昨日、新しい鍵を部屋の扉にはつけたのに」

「……ピッキングしました」

「わー、犯罪~、でも。凄い~」

「お前等に常識はないのか? とりあえずお前等の動きを封じさせてもらうからな」

「「へ?」」


 とりあえず。いきなり俺の部屋に入ってたアホ2人の手足を縛り。俺に接近して来れないように適切な距離を取った。


 何でだって? コイツ等は昔から俺の身体に平気でくっ付こうとしてくるから、最近は動きを封じてから話を聞くことにしているんだ。



「ぐぎぎ……外れない。それに何で私達と一定の距離を取っているの? 士郎は!」

「……撮影機材も没収された。酷い」

「あのな、俺達。もう高校生なんだぞ。小学生ならいざ知らず。この年になってあんな過度なスキンシップをだな…」

「……でも士郎。一週間前、私とお風呂入った」

「は? 何それ。初耳なんですけど?」

「ぶほっ! いや、あれはお前が妹の凛の振りをして、怪しい事をしてたからだろうが」


 不味い不味い不味い。また、話がややこしい方向に進んで行く。あれは単なる鉢合わせ事故だったろうが。つうか何で人ん家の風呂を普通に使ってたんだよ。このナツはよう。


「……でも士郎。まじまじと私の裸体を見…ムゴ」

「はい。ストップだ。それよりも本題に入ろう。何で? こんな夜の19時に俺の部屋に突撃して来た? それをちゃんと答えてもらおうか」

「あー、話を反らした」

「反らして無い。反れそうになったから本題に入っただけだ」


 コイツ等に振り回されては駄目だった。こっちが無理矢理でも、本題の舵取かじとりをしないと。話は全然前に進まない。


「ナッちゃん後でその時の話詳しく教えてね?」

「……OK。士郎の写真もプレゼントする」

「ちょっと待て、俺の何をプレゼントする気だ? ナツ、あー、いや。この際なんでも良いや。それで? 今回はどんないちゃもんをつけに来たんだ?」

「い、いちゃもんって……しょうがないわね。単刀直入に聞くけど。今日の放課後、何でもえちゃんと一緒にいたの? 士郎はひーちゃんと疑似恋人じゃなかったの?」

「……それと凪凪なぎなぎ。この男は今日のお昼休みに何と…こ、これは?…おのれ。士郎、私の技を真似るとはやりおる」

 

バタッ!


 ナツはそう告げると意識を失わせた。というより、俺がナツの額に玩具おもちゃ百足むかでの模型を乗せただけなんだけどな。ナツは大の虫嫌いで、でっかい虫は見ただけで卒倒する程だ。


「む、酷い。ナッちゃんわ何だと思ってるの?」

「捕まって無いだけの盗撮者だ。それに数分後にけろっと起こるだろう。それで何? 西蓮寺さんとの事だけっ?」

「そ、そう。それよ。もえちゃんと本屋でいったい何をしていたのよ? もしかして本屋デート? 学校じゃあ、ひーちゃんとあんなにイチャイチャしてたくせに最て…んも?」

「だまらっしゃい。妄想少女凪」

「ウムムグムウ? (妄想少女凪?)」


 しかし、凄いよな。コイツ等、毎回、俺の話にツッコミを入れて来やがる。お笑いのバイタリティーありすぎだろう。


「あー、本屋での西蓮寺さいれんじさんとのやり取りだろう? あれは小鳥遊たかなしさんの事について話していてだな」

「プハァー、自室かこんな美少女2人を縛って監禁してる男の言葉なんて信じられないわ。だから…」

「ああ、全てはお前等の自業自得と自爆の賜物たまものなんだけどな。このお笑い芸人共」

「だから。直接、もえちゃんを呼んじゃうんだから。来なさい! ご近所さん! コール!」

「いや、お前。何、やってんだ。凪…」


 俺はそう言って凪の方を見ると、器用に足でスマホを持って操作している。相変わらず。器用な奴だな。ん? 呼ぶ? 来なさい? コール…は? 西蓮寺さいれんじさんがここに来るだと?


プルプルプルプル……ピッ!


「もしも、もえちゃん。今から士郎の家に来て! もえちゃんの家って、士郎の家から1分位だよね? もえちゃん、来てみたいって昔から言ってたらし、直ぐに……へ? 直ぐに行くから、萌萌もえもえ言うなって? 何で?」  

「あー、たまに入るよな。見た目と下の名前で、結構印象違う人って。確か西蓮寺さいれんじさんの下の名前って、もえだっけ? 見た目がボーイッシュであんなにカッコいい娘なのに名前がもえちゃんか。ギャップが可愛い…」


ガチャッ!

「くっ無いから! ボクの名前。可愛いくないからね。桐生君!」

「あっ! 来た。ヤッホー、もえちゃん!」

「……萌萌もえもえ。今日も私服可愛い」


 夏の奴。もう起きたのかよ。いやそれよりも、何で速攻で家に現れたんだ? この可愛い私服姿のもえさんは?


 

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