第4話

フレンド登録後、間もなくボイスチャットの招待が届いた。

玲央は少しだけためらったが、了承ボタンを押す。耳元から、心地よい少女の声が響いた。


「初めまして。三条未来っていいます。プレイヤー名はそのまま“ミク”で」


その声は、どこか落ち着きがあり、玲央の高ぶった神経をすっと鎮めてくれるような優しさを持っていた。


「神谷玲央、って言えば……もしかして、前作の“Re:Vanish α”でトップ10入りしてた人、だよね?」


「……まあ、昔の話だけどな」


「まさか、あの人と練習できるなんて。嬉しい。私、前作はプロの試合をずっと観てたから」


照れ臭さと嬉しさが入り混じる中、玲央は未来の戦いぶりを改めて思い出す。

氷結属性の双剣使い。精密で冷静、けれどどこか攻撃的でもあるその戦い方は、玲央のような攻め主体のスタイルとはまた違うバランス型だ。


「今、アマチュア帯で練習中なんだけど……最近、強い人が増えてて困ってて。よかったら、コンボルートとか確認してみない?」


「いいぜ。ちょうど、俺も今の操作にまだ慣れてなくてさ」



2人はそのまま、トレーニングルームへとログインする。


『Vanish:X』のトレーニングルームは、極めてリアルに作られていた。

キャラごとのヒットボックスやフレーム、被ダメージの挙動まで再現され、対人戦を想定した練習ができる。

玲央が選んだのは、近接特化型の【斬鋼ノ型:天羽々斬(あまのはばきり)】。

未来が操るのは、属性連携と空中コンボを軸にした【双翼ノ型:氷刃ミューゼル】。


「最初は、簡単なコンボルートから。□△□→○キャンセル→△長押しって感じで」


玲央は頷き、言われた通りのボタン入力を繰り返す。何度かタイミングを外しながらも、10回目でようやく繋がった。


「おお……久々に“繋がる”感覚きたな」


「うん、今の動き、すごくスムーズだった。次は、回避→カウンターに繋げてみよう」


2人は無言で練習を繰り返した。

未来は、玲央が失敗するたびに的確なアドバイスをくれた。

「今のは1フレーム早かった」

「着地の瞬間を狙うなら、△は短押しに切り替えて」

まるでプロのコーチのような冷静さで、玲央の感覚を研ぎ澄ませていく。


1時間が経ち、2人の連携は徐々に形になり始めた。

とくに、玲央の斬撃と未来の氷属性が交差する瞬間――

「Double Combo!!」

というボイスとともに、敵AIに700超えの大ダメージが叩き込まれた時、2人は自然と歓声を上げた。


「決まったな……」


「うん、最高!」


そのとき、通知音がまた鳴る。新たなプレイヤーが2人のトレーニングルームに入ってきた。


【Haruto_AK47】がログインしました。


「おっ、来た来た!やっぱり本物の玲央さんじゃないっすか!」


明るい声と共に現れたのは、陽キャ系の少年だった。

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