第3話 この学園、俺に安寧をくれる気がない


翌日。


 魔法理論の授業中、俺は机に顔を伏せながら思っていた。


(いやいや、昨日のテスト……なんだったんだよ)


 リリスのせいでいきなり目立ってしまった。

 先生に褒められるわ、クラスメイトに囲まれるわ、「戦術系の天才」とか呼ばれるわ――


 俺の計画、三日目にして完全崩壊。


 唯一の救いは、俺の封印がまだバレてないことだ。

 魔法を「使わなかった」ことで、なんとか“凡人設定”はギリギリ保っている。たぶん。


 ……でも、あの銀髪は信用ならない。


「――ということで、次の課題は“魔力感知”の実習です」


 教壇のミランダ先生がそう言うと、教室がざわついた。


 魔力感知。それは、自分と他人の魔力の流れを“感じ取る”基礎訓練。

 誰でもできるが、その精度には大きな差がある。


「実習はペアで行います。席の隣の人と組んでくださいね」


 ……はい、隣の人と。


 つまり。


「よろしくね、アイン君」


 また、リリス・アルヴェーンです。


(詰んだ……)



 訓練場に移動し、俺たちは向かい合って座った。


 リリスが言う。


「手、出して」


「……なんで?」


「魔力の流れを読むには、身体の接触が早いの。でしょ?」


 くっ……理論的には正しい……。


 俺は渋々、手を出した。リリスの白い指先が、そっと俺の手に触れる。


「……」


 彼女の瞳が、じっと俺を見つめていた。


「やっぱり、すごく不自然」


「気のせいだって言ってるだろ」


「魔力の流れが“閉じてる”の。まるで、内側から封印されてるみたいに」


(……勘が鋭すぎるだろ、こいつ)


「でも不思議なのはね、封印されてても……中にある“核”が消えてないこと」


「核……?」


「すごく静かにしてるけど、すごく強い。……あなた、まだ“動ける”でしょ?」


 その瞬間、胸の奥がひやりとした。


 リリスの瞳は、まるで“真実を告げる者”のようで。


「アイン君。あなた、何のために力を封じてるの?」


「それは……」


「誰かを傷つけたから?」


 図星だった。


 けど、それを認めたら、また“あの夜”が脳裏に蘇る。


「でも、私はこう思うよ」


 リリスは、まっすぐに俺の目を見る。


「“本当に危険な人”は、自分の力に無自覚な人よ」


「……!」


「あなたは違う。だから私は――ちょっと安心してるの」


 それは、まるで“許し”のような声だった。


(……なにそれ)


 こっちはこんなに必死に隠してるのに、彼女は自然体で俺の核心を突いてくる。


 まるで――初めから、俺の過去を知っているように。



 その夜、俺は寮のベッドで天井を見つめながら思った。


(……もしかして、あの銀髪)


 俺の過去と、何か関わってる……?


 だとしたら――この学園生活、やっぱり静かに終わる気がしない。

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