第2話 指先は、静かに命令をなぞる
脚の隙間に、空気が流れるのを感じた。
自分で開いた脚。誰に強制されたわけでもない。けれど、その始まりが“彼”の言葉だったことを、沙耶は忘れられなかった。
正面の男――眼鏡の彼は、微笑みながら言った。
「今の姿勢、とても綺麗ですよ。……少し、触れてもいいですか?」
その言葉を聞いた瞬間、身体のどこかで“いいえ”と叫ぶ声があった。
けれど、声に出せなかった。
言葉ではなく、沙耶はまた――頷いてしまったのだ。
「失礼します」
隣にいた男が、無言で沙耶の太ももに手を添える。
スーツの生地越しに感じる手のひらの熱が、じわりと内腿に染み込んできた。
「……っ」
かすかに、声が漏れそうになる。けれど、また彼女は唇を噛んで黙った。
男の手は、すぐに動かない。ただ、そこにある。
ただそれだけなのに、スカートの中にまで熱が伝わり、下着が触れている場所まで意識が引っ張られていく。
「驚きました。……すでに、温かい」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「違……っ、そん……な」
「違う? けれど、手のひらがこうして濡れた熱を感じている。……どちらが正しいでしょうか?」
問いかけというより、宣告だった。
沙耶は、返せないまま肩を震わせた。
スカートの端が、指で持ち上げられる。
空気が滑り込み、そして――手が、下着の上から、触れた。
「……あっ……!」
びくりと腰が跳ねた。
その反応を見て、男は声を潜める。
「声を出さない約束、忘れましたか?」
羞恥と快感が交錯する。
指が下着越しに上下に這い、ぬるりと濡れた布地をなぞる。
「感じているのに、否定するから……こうして証拠を、私の手で確かめているんです」
濡れた感触。熱い、いやらしいぬめり。
指先が押し込まれるたび、心までこねくり回されているようで、沙耶は膝に力が入らなかった。
脚が勝手に震える。目を閉じたまま、声を堪える。
「……そろそろ、次の命令を聞く準備は、できましたね?」
彼女は、首を縦に振ってしまった。
自分でも、それがどうしてなのか、もうわからなかった。
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