第17章:遥の影

アートフェアの準備が進む中、遥の介入はますます顕著になった。


彼女は悠真に頻繁に連絡し、写真集の打ち合わせと称して彼を独占した。


美月はスタジオで一人、イラストの仕上げに追われながら、遥の存在に圧倒されていた。


ある日、遥がスタジオに現れ、美月に話しかけてきた。


「佐倉さん、悠真のこと、ほんとに理解してる? 彼、姉さんの事故で、ずっと自分を責めてるの。あの時、私もプロジェクトの責任者だったから、関係してた。でも、悠真は私を許せなかった。あなた、彼のそんな暗い部分、受け止められる?」


美月は息を呑んだ。


遥の言葉は、彼女の不安を的確に突いた。


「わたし……悠真が話してくれるまで、待つよ。それが、彼を信じるってことだと思うから」


美月は震える声で答えた。


遥は冷たく笑い、こう言った。


「ふーん、健気ね。でも、悠真、心を閉ざすタイプよ。気をつけてね」


その夜、美月は悠真に遥の言葉を話した。


「悠真、遥さんが、事故のこと、いろいろ話してきて……。わたし、もっとあなたの過去、知りたい。でも、怖いんだ」


悠真は彼女の手を握り、静かに言った。


「美月、ごめん。俺、君を不安にさせてた。明日、全部話す。約束する」


その言葉に、美月は頷いたが、遥の影は彼女の心にまだ残っていた。


翌日、悠真は美月を連れ、東京の隅田川沿いのカフェに連れて行った。冬の川面がキラキラと光る中、彼は姉の事故の全貌を語り始めた。


「姉貴の事故、3年前の冬だった。彼女はアートプロジェクトの取材で、山のロケに行った。運転してたカメラマンが、雪道でスリップして、車が崖から落ちた。姉貴は即死だった。遥はプロジェクトの責任者で、危険なロケを推した一人だった。俺、ずっと、遥を責めてた。でも、本当は、自分が姉貴を止められなかったこと、許せなかったんだ」


悠真の声は震え、瞳には涙が浮かんでいた。


美月は彼の手を強く握り、こう言った。


「悠真、君のせいじゃないよ。姉さんのこと、愛してたから、こんなに苦しいんだよね。わたし、そばにいるから」


悠真は彼女を抱きしめ、囁いた。


「美月、君がいてくれて、ほんとによかった」


その瞬間、二人の心は少しだけ近づいた。


だが、遥の存在と、美月の母との未解決の過去が、二人の絆を試し続けていた。

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