華に幽霊

おまとう

まゆか と しゅん

Re;01 祝詞<マホウ>少女

! 死ぬなあああ‼」

駿しゅん‼ お願い死なないで‼」

「YO‼ HOT DOGじゃないYO‼ GOD DOGだYO……」

「「もう壁も玉も壊した‼ 次に壊れるのはお前だ犬畜生‼」」

股ぐらは、鮮血に濡れていた。


■■■


くす マオすい 駿しゅんは同学年の普通の小学校六年生だった。

あの日を境に生活は天変地異を起こすが、まだそれには早い。

ただ日常を楽しく一緒に過ごす友達なかまだった。

駿がマオにちょっかいを出してはしかられ、謝り仲直り。

そんな友達以上恋人未満の関係性だった。

あの日までは。


■■■


バッと飛び起きると午前七時。

遅刻せずに済んだかと思ったが、それ以上に夢の内容に恐怖していた。

それに……。

「あのマオって奴誰だ?」


そう、あの話はゲーマーがよく言う、一周目と言ったところの世界でのお話。

リプレイした今は、二周目の世界なのだ。


「あ~クソだりぃいいい。もう一度寝て学校サボるか……いや、まてよ。保健室でサボったほうがいいな。あのカエノ嬢、保健室の先生なだけあって、性的な話ししても親切に答えてくれて、それが俺のオカズになるし……なにより巨乳だし。うっし、まずは飯だ飯!」


そう、この世界のすい 駿しゅんは不良少年であった。

反対にマオ……いや、この二周目ではくす というのか。その少女は品行方正で礼儀正しく、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は菊の花という言葉がお似合いな、美人の生徒会長だ。


「飯も食ったし、服も着替えたし、ラン・・……ドセルも背負ったし、いってきまー…あ」

「あ! 不良が出てきた! しかも要らないランドセル背負っているし、私服だし!」

「うっせ、マユぼう。そのうちデコパチ乗って追っかけてきそうだな。まあ、とりま着替えて来っか」

「私待っているからね!」


■■■


「で、出てきてなんでそんな格好なのさ!」

「リーゼント……はできないから、オールバックに、不良と言ったらちょうランよ!」

「私は君に……べ、別にいいけど! いや、良くない! 生徒会長として、不良でいてほしくないのだけどなぁ‼」

「へーへー、学校行くだけマシだろ、不登校のやつの家行って乗り込んで、襟でも掴んでこいよ」

「まったく! アンタら不良がイジメを起こすから不登校の子が増えているのでしょ‼」

「あんなダセェ奴らと一緒にされたくないな! 逆にいじめっ子とタイマンして負かして、イジメを減らしているのだぜ俺‼」

「全くありがたくないよ! 喧嘩したいだけでしょ!」

「そ~ともゆぅ~」


とりあえず二人は学校……進学 する中学校へと歩き始めた。

すると、交差点で黒猫が前を通り過ぎて……。

「黒猫は可愛いけど縁起悪いね、早く行こ!」

「いや、俺……夢で見たんだ。何かを忘れているんだ……。思い出せ俺の脳‼」

そんなことお構いなしに、駿の手を引き彼女は走るが──。


きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。

ばん。

命は儚く散った。


■■■


「なんとか真由華をかばえたが、俺は死んだみてぇだな。でも、なんでこんなに体が重いんだ?」

「それは君が転生したからだよ。──駿くん。今度はまさか君が死ぬなんて」

「う、うわああああああああああ‼ 猫がしゃべっ……でも、夢で見たな。お前が見せたのか、あの夢を」

「その通りさ、ボクはマオと言う。猫と書いてマオだ。これからペット兼サポーターとしてよろしくね」

「ああ、!」

そう言い終わったあと、辺りを見渡す。間違いなく通学路だ。死んだ場所だ。

そして体を見る。丸い……腹。服はスウェットに便所サンダルか?


「おい、俺のカッケェボディが台無しになっているじゃねぇか! そういや声もぶてぇし、オメェ、何しやがった‼」

「ボクは手助けをしただけさ。君が、魔法少女のマスコット・・・・・・・・・・になれるようにね」

「ま、マスコットってオメェ、普通は妖精だろうが! なんでこんなおっさんみてぇな見た目なんだよ‼ 糖尿病で陽性ってか‼ 上手くねぇんだよ‼」

「そのオメェてのやめてほしいなぁ。ボクにはマユ……マオといういい名前があるのに。それにね、今の姿は君の将来の姿だけを借りてきたものだよ。力は中一の子どもと変わらない。不良ってやっぱだめだね、だらしないもん」

「なんだと‼」

と拳を振り上げるが、反動で尻餅をつく。

「ってぇ、脂肪量に筋肉が負けていて、動くのがダリィ……ゼェハァゼェハァ……」

「だろうね。今君は、ネコ一匹も殺せないよ」

「チックショー? で、俺に何をさせる気だ?」

「真由華……ちゃんを魔法少女に勧誘し、悪い敵を倒す旅に出てほしいんだ」

「真由華を魔法少女に勧誘⁈ この見た目で⁉」

「大丈夫、そこはボクがフォローするから」


■■■


ピンポーンとチャイムを鳴らす。夕方五時。この時間にいるのは真由華だけだ。

「はーい……って誰おっさん‼ 肩にネコ‼」

 驚くその彼女の服装は喪服だった。

「真由華ちゃん、ちょっと二人で話せるかな?」

「ねこがしゃべ……」

言い切る前に真由華の肩にマオが飛び乗った。

一旦パタリと戸が閉じる


「君の秘密を言い当てよう」

「えっはっ何‼」

「君は駿の事が今でも好きだ」

「えっ、ちが……わないけど!」

「そんな死んだ駿くんが体をのっとって来たのが今のおっさんさ」

「ええええええええええええええええええ‼」

「よし、もういいだろう」

ガチャリと扉が開く。


マオ、お前が開けたのか? かなり身軽だな……俺もそうなりたかったぜ……」

「そ・れ・よ・り! あなたって本当に駿くんなの?」

「ああ、そうだけd」

その瞬間、唇と唇が触れ合った。

「この声が枯れるくらいに、君に好きといえばよかった! 世界を変えさせてくれよとも思った。君が高嶺の花のように感じて臆病な自分になっていたことを悔いた‼ だから、せめて今言わせて。愛している。大好きだよ」

そういうと真由華を中心に突風が吹き荒れる。

「恋は突撃ラブハートとは言ったものだね。駿くん、変身アイテムが完成するよ!」

「変身アイテム? そうか、これで真由華を魔法少女に」

「真由華くん、落ち着いて聞いてくれ。君の魔法少女名はラブハート。本名は口に出さないように。……では、あのアニメになぞらえて。ボクと契約して魔法少女になってよ」

「う、うん? な、なる‼」

すると、突風が駿の手の中へと収束していき、ハート型のコンパクトになった。

それをそっと真由華に手渡す。

真由華がそれを開くと、辺りが魔法の世界に包まれた。

コンパクトのパフを手に取り、顔や体にポンポンとはたいて行くと、魔法少女らしい格好に移り変わってきた。

スペルマ・スペルム・ラララララ?

約三分の変身バンクを経て、彼女は魔法少女ラブハートへと変身した!

するとマオが早口でまくり立てる。

「さあ、変身すると敵が現れるよ‼ 最低限のことを教えるね。まず、君‼ 真由華ちゃんは魔法が使える‼ その魔法を、ノリト・マジックと書いて祝詞スペルと言う‼」

「ちょっとまて、その単語は確か……」

「駿くん黙って! えっと、真由華ちゃんが使えるのは、攻撃魔法のATTACアタックWANウァンと、反転魔法のRe;BURSTバーストだ。とにかく攻撃するしかない。相手に良いパンチを食らわしてやれ!」

「ふたりはプイキュアと同じだな」

と駿が言うと、真由華とマオが同時に「イじゃなくてリでしょ‼」と突っ込んだ。


それはさておき、家の前に暗雲が立ち込める。

カラカラと音を立て、骸骨が地中から出て来ると、それは鬼の姿に変貌していく。

その姿をマオが見ては、シャーっと威嚇の姿を見せた。

「そうだ言い忘れていた‼ 駿くんはマスコットとしてやることがある‼ 後で話す‼ 来るよ‼」


「オニー……腹減ったオニー。ナニを食えば良いかな……オマエ、太っていて美味そうだな。オニー‼」

と、駿に向かって飛びかかって来た!

「真由華! 反転魔法‼」

「えっ、はいっ! Re;BURSTバースト!!!」

 マオの的確な指示により、鬼の攻撃は自分へと浴びせられる。

「じゃあ、次‼ 駿くんは真由華ちゃんをハグ‼」

「ハグって……」

「男らしくって言ってんだよ‼」

その通りハグすると、真由華に光が湧いた。

ラブパワー補充完了‼ 次仕掛けるよ‼ 攻撃魔法、っちゃって‼

「はい‼ ATTACアタックWANウァン!!!」

どこかで、アタック~♪ アタック~♪ と聞こえる気がするが、気にしないことにして。

犬のような威風堂々とした攻撃は、鬼に致命打を与えた。

「オニー……ナニー……俺は何者にもなれずー」

そう言い、鬼は崩れ去り、骨の一片だけ残った。

 恐らく肋骨ろっこつの一部だろう。


「よし、倒れたか……でだ、マスコットの役目ってなんだ?」

 そう駿が聞くと、マオが堂々と答える。

「それは……愛じゃよ」

 ネコの体で、無理してハートマークを作る彼女に、オイオイオイとツッコみ。

「でも、駿から凄い愛を感じた‼ 絶対私にゾッコンだなと思ったよ‼」

「それがLoveラブ Powerパワー. 魔力と似た、心の力……しんりょくだよ」

「それってもしかして、どんな感情も力になるのか?」

 駿の問にマオが「鋭いね」とこたえる。

「なるにはなる。だけど、真由華ちゃんは愛情の方が分かりやすいかなって。だって見ていると、真由華ちゃんの方が駿くんにゾッコンだよ」

 そう真由華マオが言うと、真由華は方を赤らめ、顔に手を当てキャーと恥ずかしがっている。

「そういえば真由華ちゃんの変身も解けたね。さて、骨を拾い拾い」

「それって誰の骨?」

「そんなの聞かなくてもわかるよね? 真由華ちゃん……。”駿“だって」

 そこでマオ以外の二人に虫唾むしずが走る。

 駿がしみじみと。

「そうか俺……死んだんだ。今も実際は魂だけで、肉体は紛い物なのか……」

 そう言うと、二人は返す言葉もなくしんみりとした。

 この空気を壊したのは、以外にも駿本人だった。

「そういえばマオ、お前は誰だ? 薄々気付いてはいるが──」

「ボク……いや、私もだよ。ただし、一周目のね」

「えっ、もう一人の私……‼ それってどういう」

 その真由華の言葉をさえぎるように、マオ──が言う。


■■■

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