二人ぼっちの旅日記

@kirin2158

旅道中の一幕 01

 むかーしむかし、あるところに二人の少女がおりました。


 二人が行く先は、緑豊かな草原が広がり、生命にあふれる植物が勢いよく成長していた。太陽は輝きを増し、快晴の青空がどこまでも広がっていた。その青空は澄み渡り、まるで絵画のような美しさを持っていた。

 道は二人の前方に広がり、遥か彼方まで伸び果てしなく延びているように見えた。

 周囲には色とりどりの野花が咲き乱れ、微風に揺れ、鳥たちが愉快な囀りを奏でながら飛び交い、その美しい鳴き声が時折耳に心地よく響いてきた。

 二人の足元には柔らかな草が広がり、歩くたびに足元から心地よい感触が伝わってきた。草原の風は優しく吹き抜け、髪をなびかせながら少女達に心地よい涼しさを与えてた。遠くには小さな川が見え、その透明な水面には太陽の光が反射してまるでダイヤモンドのようなきらめきを生み出していた。

 そんなのどかな風景の中を進む少女達だったが・・・


「・・・お腹すいた~」


「・・・」


「歩き疲れた~」


「それもう数十回は言ってるよラキ」


「だってだってぇ」


 金色の髪を揺らしながら歩みを進める少女はそれはそれは可愛らしく数多の人々が思わず振り返るほどの美貌だが、今はその面影もなくなるほどやつれてフラフラと歩いていた。

 えんじ色の膝丈ほどのドレスを身にまとい藍色のローブを羽織り背中に背負ったどでかいリュックと身の丈を超える大きさの黄金の大槌がガシャガシャと音を立てながら揺れている。かなりの重量に見えるがそれを背負った少女はどこにでもいる普通の女の子に見えた。


 ラキと呼ばれたその少女は自身が引っ張る木製のキャビンに乗るもう一人の少女に不満げにごねる。


「あともう少しで街に到着するよ。そうしたらご飯たらふく食べれるから頑張って」


 車椅子に座っている少女は銀色の髪をハーフアップの三つ編みにて黒いワンピースにえんじ色のカーディガンを羽織りキャビンの椅子に腰を下ろしていた。

 整った顔立ちとカチューシャを頭に着け瞳を閉じながら手にしたパイプに火を入れ煙草をふかしていた。


「そんなの知ってるよ~でもお腹すいた喉乾いた歩き疲れた~ ターちゃんなんかないの~?」


「飲み物くらいならあるよ」


 ターちゃんと呼ばれた少女、タギツは車椅子の後ろに積んである荷物から水が入った革袋を取り出して前方に投げた。


「ありがとうタギツ。ゴクゴクゴク・・・ ぷは~!染み渡るッ!」


 水を一気に飲み干したラキは空になった革袋を投げ返してまた歩みを進めた。前の街を出発してから既に数日が経過しており休憩しながら来たとはいえ疲労がたまっていた。よくあることだがここ数日の間天候があまり良くなく本来1日で着くはずが天気が回復するのを待っていたため日程が大幅に狂ってしまっていた。

 そうした理由ですぐにでも次の街につきたかったラキはフラフラになりながらもキャビンを引っ張った。

「ターちゃん引っ張ってくださいよ~」

「無理だって知ってるでしょ足動かないのだから」

「ケチ~ 魔術でちょちょいとやってくれたらいいじゃない~ブーブー」

「いやだね。疲れる」

「ひどい!」

 

 ラキがよよよと悲しむフリをしていたがタギツはスルーしてのんびりとパイプに火を入れてふかした。 それからしばらくすると前方に石造りの城壁のようなものが見えてきた。おそらくそこが次の目的地の街だろう。

「お!!見えてきた~! まっててね私のご飯とお酒とベッド今迎えに行くからね!!」


「あれが目的地のようだね」


 二人が進むにつれ城壁はどんどん大きくなり顔を見上げないといけないくらい高くそびえたち、城壁はところどころ欠けておりコケが生えており隙間から雑草が生えていた。そして進行方向には木製の大きな両開きの扉があり片方が開いていた。

 扉の所には二人の兵士が立っており軽く会釈してからその城壁の中に入っていった。街の風景はよくも悪くも普通の街で、街の人々がひっきりなしに行きかっていた。街に入ってから石畳の道を進んでいき遊んでいる子どもたちや、食料を抱えている女性の方、仕入れた品物を荷馬車に詰める商人とすれ違いながら二人は街を眺めつつ進んでいった。


「ここも活気があっていいいね~ なんだかいい匂いもするし、あ~早く食べたい飲みたい騒ぎたいッ!」


 この後食するご馳走を夢想してにやけ顔でふへへと笑いながらラキは冒険者ギルドの前までやってきた。冒険者ギルドとはありとあらゆる依頼をこなして報酬を得て生活をする人々のために存在する互助組織で世界各国にこのギルドが存在している。冒険者ギルドに登録していると依頼を受けることが可能なうえに冒険者ギルドで格安で宿泊することも可能でさらには食事や酒精をとることもできる。そういったことから二人は旅をするにあたっての資金を得るために冒険者ギルドで依頼をして食い扶持をつないでいる。

 タギツにはキャビンの中で待ってもらいラキが冒険者ギルドのドアを開けると中にいる人たちから一斉に視線を浴びた。中にいたのは体に無数の傷跡を持った屈強な男たちや全身鎧を来た人たち。あとは冒険者ギルドに依頼しに来たと思わしき小太りの男や魔法使いと思しき女性などが鋭い視線でラキを値踏みするように見つめた。

「誰だ?」「見ない顔だな・・・」「よそ者か?」「あらかわいい」「確かにいい面してんな」「というか何あの大槌」「戦士か?あの体格で?」「なにしにきたんだ?」

 ひそひそと話をする声をスルーしてラキは奥にある受付カウンターへ向かった。受付カウンターにはモフモフの白と赤の毛でおおわれくりっとした瞳、とても目立つ特徴的な二つのうさ耳が生えており片方にピアスをしていた。他のギルド職員と同じく制服に身をつつみ手元の書類に目を通していた。

 ああいった獣と人を合わせたような種族を獣人族と呼びその中にも様々な種族が存在する。更に同一の種族の中にも人獣寄りの個体と亜人寄りの個体が存在していたりする。目の前の獣人はどうやら後者のようだ。

 ラキの存在に気が付いたのか書類から目を外しそれから営業スマイルをはりつけて応対した。

「いらっしゃいませ冒険者ギルドへようこそ。ご依頼ですか?」


「いえ。この街に始めてきたので宿泊先がどこなのかと何かよさそうな依頼が出てないかと思いまして」


「あ、冒険者の方でしたか、失礼しました。 えーと、宿泊先の選定と依頼がないかの確認でしたね。少々お待ちください」


 そういって受付のうさ耳の獣人は奥にひっこみ少ししたあと手にした一枚の用紙をラキに見せてきた。どうやらこの街の地図らしい。


「宿屋はこことここ。 あと・・・ここにもあります。 こっちの宿屋はとてもサービスの質が高いですがその分料金も割高になってますね。ああもちろんここのギルドの宿をご利用されても構いません。 依頼に関しましてはあそこのボードに張り出されております依頼から選んでください。 それとご存知かとは思いますが等級が釣り合わない依頼は受けられませんのでご了承ください」


「あ、はーい。わかりました」


 地図に乗ってい宿屋をメモして今日はどこの宿屋に泊まろうかウキウキ気分でいるとギルド内にいた冒険者の男が絡んできた。


「よーよそ者。おめーどっから来たんだ? ここはな魔物との戦いをやりまくってる血の気の多いゴロツキ連中ばかりのギルドでな。おめーみてーなへなへな嬢ちゃんが一人でうろうろしてたらあっという間に襲われちまうんだよ。こんなふうになッ!」


 突然男は丸太のような太い腕を振りかざし思いっきり殴り掛かった。 ゴロツキとはいえいっぱしの冒険者。殴られたらただでは済まない ・・・が


「?どうしたのですか? あ、もしかして力比べですか! 力比べですね!? い~ですね力比べこれぞ荒くれ者の冒険者ギルドって感じです!」


「あ?なんだ?」


 振りぬいた拳は見事にラキのお腹にクリーンヒットした。衝撃が広がり、その一瞬、空気が震えるような感触が手に伝わった。しかし、驚くべきことに、ラキはまるで何事もなかったかのように微動だにせず、ただ立ち尽くしていた。

 ラキはニコニコ笑顔とキラキラ輝く瞳で拳の一撃を受けたことを一切気にしていなかった。


「ささ! 遠慮せずにもっとぶん殴ってみてください!力の限り思いっきりおねがいします!」


「な、なに言ってやがるこのガキ!」


「え?だって今のはほんの小手調べ程度の力ですよね?まさかあの程度の貧弱な力しか出せないなんてことはないですもんね。私冒険者の方とのケンカもギルドの華と思ってるタイプですので遠慮せず来てください!」


「意味わからん言ってんじゃねえぞ。 そんなにぶん殴られてえならお望み通り殴り倒してやんよ!!」


 そういうと男は持てる限りの力を振り絞って殴りまくり蹴りまくるが目の前の少女は倒れるどころかよろけることすらなく、一歩動かすことができない。まるでとんでもなく硬い大きな岩の塊を相手にしているような・・・そんな錯覚すら覚える感覚に男は段々と体力の消耗からくる息切れと不安と恐怖からくる冷や汗をながした。


「どうしたんですか? もっともっと打ち込んできてくださいよ!ほらほら!こないならこっちから行きますよ?」


「ヒッ くっ来るな!」


 穢れなき満面の笑みを浮かべながらずかずかと歩いていき、男の前まで歩み寄ると両手を広げ、目をキラキラさせながら無言の催促を行った。男は恐怖に耐えきれず思わず腰の剣を抜くと悲鳴のような叫び声をあげながら手にした剣を構えた


「おいよせ!やめろ!」「流石にそれはシャレになんねぞ!」「誰かそいつを止めろ!」


 周りの冒険者たちもさすがに剣で斬りつけたら少女が怪我をしてしまうと思い慌てて止めようとしたが、それよりにも早く男が手にした剣を振り下ろした。 怒号と悲鳴が入り混じった声が響き渡り思わず目を逸らしたものもいた。後に残るのは先ほどまでそこにいたいたいけな少女が血まみれで倒れている姿・・・と誰もが想像した。—が


「おお!剣もなかなかいいもの使ってますね~。つまりこの冒険者ギルドは活気にあふれているタイプのギルドなのですね。ふむふむ・・これはいい仕事がありそうですね♪」


「え、あ・・・え・・・」


 誰もかれもが状況を把握できずに呆然と立ち尽くしていた。本来目の前には血だまりに倒れ伏す少女の光景があるはずなのに・・・ 目の前にいる少女は何事もなかったかのようにその場に立っていた。振り下ろされた剣は確かに少女に少女にあたっていた。しかし当たった瞬間そのまま止まった。まるで巨岩を斬ろうとして斬れずに止まったかのように全く刃が入っていなかった。 そんなあり得ない光景を目の当たりにした冒険者たちの誰もが黙り込んでいると


「あなたたち何を騒いでいるの?」


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