偽病弱第二王子に憑依した!?

@qtenr

プロローグ

 俺は今日高校を卒業した。

 桜だか梅だかがそれなりに咲いている帰り道を陰鬱な気分で歩いていた。


 自分で言うのもなんだが、俺は優秀な人間だったと思う。

勉強はめちゃめちゃ頑張った。テストの得点の順位は毎回上位30人の内に入っていたし、漢検は二級だし数検は準一級、英検も同じく準一級だ。


 取れるものは取っておこうの精神と、将来就職するときに少しでも良い影響を齎す様、色々な資格に手を出した。本当に役に立つかわからないのに。

まぁ広く浅くで残念な感じがしなくもないが....



 部活だって頑張った。

昔からやっていたという安易な理由で剣道部に入ったのだが、絶望した。

いや絶望させてしまったのかもしれん。


 昔から道場で習っていたから同年代の強さを知らなかったのだ。


 道場でむさくるしいおっさん達に混じって習っていたから知らなかったと言い訳させて欲しい。

いや、違うな、そもそも道場自体がおかしいのだ。


 何故あんなおっさん達と真面目に殺気を交えて戦わなきゃならんのだ。誰が現代で刀を使った殺し合いをするんだよ。

 そんなことを日常的にしていたせいで何となくだが殺気や害意を感じ取れるようになってしまった。自分でも凄いと思ったがそれほど現代社会では役に立たんのだ。完全に無駄な能力なんだよ....


 どうして絶望させたかってここまでの話を聞けば簡単に予想できるだろう。

殺し合い染みたことをやってきた奴が部活で剣道をやっている奴に負けるわけがない。それは分かっていたから手は多少抜いた。ほんとに抜いたから。


 でも駄目だったらしい。三年生をボコボコにしたのが良くなかったのかな....

そんなこんなで三年間部活自体には出ていたものの、先輩後輩同級生みなから恐れられまともに戦う機会がなかった。


 道場で師範をやっていた爺さんは俺が高校一年生の時にポックリ逝ってしまった、九十八歳だったらしい。

その年であんなに強いとかバケモンじゃねーか!

失礼、あまり亡くなった人を悪くは言いたくないんだけどね。

絶対化けて出てくんじゃねーぞ....



 顔だって見れない程では無い。清潔感だってちゃんと意識していた。でも俺の薔薇色の青春はどこにもなかったのだ。原因は自覚している。俺は圧倒的コミュ障なのだ。


恋人ができないどころか友達の一人もいなかった。一年生の初めあたりのグループができる最初期に上手く立ち回れなかったのが災いして、完全に孤立してしまったのだ。そうなった後はすぐに振り切れて、ソロ生活を満喫したよね。


 資格もいっぱい取れたし、勉強も運動もちゃんと出来たし大学だってまあまあ良いところに行けたし。


全然悔しくなんかないもん!別に良いし!と心の中で独り高校三年間の総括をしていたとき、ふと前を見るとイヤホンを着け横断歩道を渡ろうとしている美少女がいるで

はないか。


その美少女は俺と同じ制服を着ていた。お前も独りか....なんて思ったがあんな美少女が独りなことがあるはずないだろう。ごめんなさい。心の中でそう謝っておいた。


 ふとその美少女の奥に目をやると猛スピードで突っ込んで来るトラックがいた。

おいおい一般道で飛ばしすぎだろと思ったころには、足が勝手に動いていた。

俺は、美少女とトラックの位置を交互に確認しながら全速力で走っていたのだ。

何してるんだろうなぁ、と思いつつも足が止まることは無かった。


一応トラックの運転席に目をやると、完全に気絶状態にあるおっさんが見えた。

大変なんだろうな、と思いつつも走る。美少女に追いついたがトラックも間近に迫っていた。


 『魔法みたいな力があったら運転手まで助けられたのかなぁ』

なんて思いながら俺は美少女の身代わりになるように彼女を突き飛ばしトラックの前に飛び出た。



そうして悲しきコミュ障モンスターである俺こと「世良 大智」の人生は幕を閉じたのであった。

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