『…今月も雨ね。あなたの月命日は毎回雨なのよ。1回忌になっても雨男っぷりは変わらないのね』
命日、今日なのか。だから旦那さんは今日を指定して葉書を送ってきたわけか。彼女は花が好きなのか、部屋の中にはいくつかの花瓶と額に入った押し花が飾られていた。そして手の中にも、押し花の収められた本のしおりが握られている。
しばらくここから動く様子はなさそうだったが、先に配達を終わらせることに。封筒の中から幽便葉書を取り出し、彼女の額へ当てた。
「難ある日々、ご苦労様です。
どうかあなたに、幸運が訪れますように。
私の時間に代えて、あなたに幸あれ」
今回もしっかりと送り届け、葉書がシャボン玉のように弾けた。心なしか、お花のようないい香りがした気がする。
「幽便端書、確かにお届けいたしました。」
部屋を後にする前に、少しだけ部屋を見させてもらった。
ベッドと机、椅子、テレビ。本棚の上には花瓶と夫婦て撮った写真が飾られていた。まだ最近の物みたいで、2人とも良い表情をしている。旦那さんが亡くなる前に旅行にでも行ったのだろう、歳を重ねても2人楽しそうで微笑ましい。
お花は旦那さんの趣味だったのか、お花の手入れをしている姿も飾られていた。いいなぁ、こういう夫婦。俺も将来こんなふうになりたい。帰り際にバルコニーの方を見ると、彼女が携帯で外の写真を撮っていた。まだ雨が降っているなかだが、なにを撮っていたのだろう…
「お邪魔しました」
一応挨拶だけして、部屋を出た。施設内は活動を始めた人が増えていて、中庭でお話をする人や、職員の人に連れられて食堂に入っていく人もいる。三波さんは、しばらく思い出に浸っているんだろうな。
外はさっきよりも雲が薄くなって白い光が降り注いでいる。見晴らしのいいこの場所は、晴れたら気持ちいいんだろうなぁ。門から出た場所は丁度三波さんの部屋のバルコニーの方向と同じで、さっき写真を撮っていた場所がよく見える。
「…なるほど」
視界の開けたその方には、薄っすらと虹がかかっている。高い建物が無いおかげで、虹の始まりから終わりまでがしっかりと見える。雲の隙間から刺す光と相まって、神秘的な風景になっていた。
もしかしたら旦那さんが幽便端書といっしょに、虹を送ってくれたのかもしれない。
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