異世界転生したけど第2の人生を踏み出せません ~異世界極限低歩数クリア~
@Sutika
第1話:俺は一歩も動いていない
白い空間だった。まるでポリゴンの貼り忘れみたいな。
「あなたの魂は試練を乗り越えることで、次の世界へと進むことができます」
女神のような姿をした存在が語りかけてくる。声は心に直接響いてくるタイプだ。
「この世界は……あなたが生前、特に愛していたRPG。
条件はただ一つ──ゲームをクリアすること」
その瞬間、足元から影がにじんだ。
誰かがインクをこぼしたみたいに、黒が空間を喰らっていく。
「くだらん」
聞いたことのない男の声が、空間を振るわせた。
低い声とともに、歪んだ仮面をつけた男が姿を現した。
「俺の世界に一歩でも足を踏み入れるのは許さん!
踏み出した瞬間、キサマの魂は完全に消滅する!」
「これは邪神の呪い……!?
これでは、あなたを転生させることができません……」
女神が顔を曇らせる。だが──
「いや、問題ない。お望み通り一歩も動かずにクリアしてやるよ!」
『え!?』
女神と邪神の声がハモる。
「さあ、女神よ。ゲームを開始してくれ。
ここから初期位置まで移動させられるのは、“俺が”歩いたわけじゃないからな?」
「あ、ハイ」
「一歩も踏み出さないって、そういう問題なのか……?」
「さあ……?」
そして、世界が白く弾けた。
次に目を開けたとき、見覚えのある玉座の間に立ってた。
正面には、いかにもな王様。左右には兵士。
頭の中に響いてきたのは、耳に残るような安っぽいファンファーレ。
間違いない。これは、ゲームのオープニングだ。
目の前の王様が話し始める。
──俺は、一歩も動いていない。
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