第23話 【謁見の間】
【謁見の間】
高くそびえる石の柱、色とりどりのステンドグラスから射し込む光が、荘厳な空気をいっそう際立たせていた。
謁見の間――それは、王都カンセズの威厳と歴史、そして王家の権威を象徴する空間である。
赤い絨毯の先、黄金に縁取られた玉座に鎮座するのは、現国王――ガーラント・ギルアンティア。
その隣には、甲冑に身を包んだ将軍、ニオ・ギルアンティアが静かに控えている。反対側には宰相、侍従長が並んでいた。その前に、白銀の狼の隊員たちが横一列に並び、ひざまずいていた。
「第十四騎士団・白銀の狼、任務の報告に参上いたしました」
カイルが一歩進み、深々と頭を下げる。
「うむ」
短く頷くと、ガーラント王は鋭いまなざしを彼らに向けた。
カイルは一礼し、背筋を正して報告を始める。
「カッシュ遺跡に棲みついていたドラゴンについてですが――」
遺跡の現状、ドラゴンとの対話による立ち退きの経緯、さらに帰路で遭遇したロックスパイクドッグに関する報告も加え、カイルは任務の全容を簡潔かつ的確に述べていく。
ただし、ユウマに関しては「ドラゴンと会話を行った旅の冒険者」という説明にとどめ、能力や素性には言及しなかった。
報告が終わると、白銀の狼たちは再び頭を垂れ、王の言葉を静かに待った。
「――ご苦労であった」
低く重い王の声が、謁見の間に静かに響いた。
「カッシュの街と遺跡を無血で取り戻せたこと、まことに喜ばしい」
「……無血だってよ」列の端でラスクが小声でつぶやくが、隣のカランに睨まれる。
一拍の沈黙の後、宰相が一歩前に出て静かに口を開いた。
「ところで――“キリハラ”と名乗る者、そやつはいま、どこにいるのか?」
その問いに、場がわずかに緊張を帯びる。
「はい。現在は、我が家のゲストハウスにて滞在しております」
ククルが一歩進み、丁寧に答える。
その瞬間、隣に控えていたニオ・ギルアンティアの眉がピクリと動いた。
宰相は重ねて言葉を続けた。
「陛下、いかなる力を持つか不明な者を、この王都に無警戒で置いておくことは得策ではありますまい。当面のあいだ、監視下に置くべきかと存じます」
「……ふむ。妥当な判断だな」
ガーラント王が静かに頷き、支持を示す。
そして、王は玉座より視線を上げ、場に向けて力強く言い放つ。
「これよりは、ネフィルの動向に対して一層の警戒を強めよ。我がカンセズは、決して侵されぬ。……その誇りと信念を、忘れるな」
その声は、謁見の間に深く響き渡った。
白銀の狼の面々は、再び深く頭を下げる。
国王陛下への謁見を終え、白銀の狼の一行はそれぞれの帰路についた。ククルもまた、自宅――ギルアンティア邸を目指して足早に歩いていた。
「今日はリード兄様も戻ってきてるし、きっと夕食は賑やかになるわね……それに、お父様もユウマに会えばきっと、気に入ってくれると思うわ」
そんなことを呟きながら屋敷へたどり着く。
一度は着替えようかと考えたが、思い直してそのままゲストハウスへと足を向けた。
玄関前で軽くノックしてみる――が、中から応答はない。
少し迷ってから、静かに扉を開けた。
「……ユウマ?」
返事はないが、どこからか賑やかな声が聞こえてくる。どうやら二階らしい。ククルは階段を静かにのぼっていく。
寝室の前まで来ると、扉の内側から笑い声と人の声が漏れ聞こえてきた。
ノックをすると、しばらくしてユウマが扉を開ける。
「おかえり、ククル」
「ただいま、ユウマ。……ずいぶん楽しそうね?」
ククルが首をかしげながら部屋の中をのぞくと――奥のテーブルには見覚えのある二人が、丸いものを手に向かい合っていた。
「リード兄様!? ……エリッタ様!?」
思わず声が上ずる。
「おお、ククル! 久しぶりじゃのう!」満面の笑みを浮かべながら、エリッタ王女が元気よく手を振る。
テーブルの上には線が引かれた紙。その上に整然と並べられた丸いボタンが置かれている。
「何をしているのかしら?」
ククルがユウマに小声で尋ねると、代わりにエリッタが勢いよく答える。
「コモクナラベじゃ! ククルもやってみるか?」
「コモク……ナラベ?」顎に指を添え、小首をかしげるククル。
ずきゅーん
するとエリッタはすぐさま駆け寄り、ククルの手を取ってぐいぐいとテーブルの方へ引っ張っていく。
「これはファトスのへんきょーで流行っている遊戯なのじゃ! キリハラが教えてくれたのじゃぞ!」
「こんなにルールを簡単にしてゲームとして成立つとは……意外と熱くなるぞ」
盤面を見つめながら、リードが微笑む。
ユウマは少し照れたように頷きながら言った。
「いわゆる『自分の色の駒を縦・横・斜めに五つ並べたら勝ち』っていうシンプルなルールです。でも、相手に並ばせないように打ち合うから、けっこう読み合いが大事なんです」
「へえ……面白そうね」
ククルは興味深そうに盤面をのぞき込む。
五目並べ――
好奇心旺盛なエリッタ王女に、ファトスの辺境についてあれこれ尋ねられた後、「他にも何か面白いものはないのか?」と何度もせがまれ、何かゲームでもと考え将棋や囲碁のことを思い出したものの、将棋は駒の種類もルールもややこしいし、囲碁に至っては俺もちゃんとわかってない。教えるには難しいか。そう判断して、もっと単純で楽しめるものをと、ユウマが選んだのが五目並べだった。
駒はキャスリーに大きさと数を伝え何かあるかと尋ねると大量の洋服のボタンを用意してくれた。後は紙にマス目を描くだけで出来上がりだ。ルールもシンプル。けれども勝負は意外と奥深く、読み合いも熱くなる。
説明すると、エリッタ王女達はたちまち夢中になり――そして今に至る。
余談だが後に「コモクナラベ」は王都中に広まり大会なども開かれ第1回目の優勝者はキャスリーであったりしたのだった。
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