第17話 【対ロックスパイクドッグ(雌)戦 其の二】

【対ロックスパイクドッグ(雌)戦 其の二】


 耳を焼かれ、腹を裂かれたロックスパイクドッグ――その雌獣が、怒りの咆哮を上げる。


グワァァアアアアアアッッ!!


 鼓膜を揺さぶる叫び。空気が震え、地面が共鳴する。その咆哮の衝撃で、全員の身体が一瞬ビリッと痺れた。


 しかし、騎士たちは怯まず再び一斉に飛び込む――致命傷を避けつつ、各々の武器で反撃を加えるも、雌獣の分厚い装甲は刃を通さない。


「マジックミサイルじゃ、たぶん弾かれる……」ユウマの思考が加速する「高威力の魔法か……だが、どうやって確実に当てる!?」


 そのとき視界に映ったのは、道の奥の切り立った岩壁――獣、岩……それを繋ぐイメージが頭の中で形を成す。


「……これだ!」


「みんな! ヤツを岩壁に誘導して!」


 ユウマの声が戦場に響いた。


 隣にいるロックに尋ねる

「ロックさん! ヤツの動きを止められますか? 一瞬でいい!」


「閃光で目眩ましなら、ある程度近づけばいけるよ」


「頼みます!」


 ロックが走り出す。続いてユウマも――その意図を察したカランが即座にカバーに入り、盾で攻撃を受け止める。同時にククルも雌獣の攻撃をかわしながら、岩壁へ向けて駆け出した。


 岩が鋭く生え並ぶ危険な地形の上を、ククルは風のような動きで踏みしめながら渡っていく。


 その姿にユウマは目を細め、両手を構え――


 イメージする。


「巨大な岩の棘……串刺し……はりつけにする」


 ククルが、左右を切り立った岩に挟まれた通路に飛び込む。


「ククル! 離れて!」ユウマが叫ぶ。


「ロックさん、今です!」


 ククルは左右の壁を交互に蹴りながら跳ね上がり、雌獣の背後へ回り込むと、こちらへ向かって駆け出す。


 雌獣が咆哮と共に振り返ったその瞬間――


 シュバッ!


 ロックの杖から放たれた光球が、一直線に雌獣の顔面へと飛ぶ。

そして――


 顔面の手前で炸裂した閃光が、強烈な光を辺りに撒き散らした!


 ロックスパイクドッグの動きが一瞬止まる。


「今だ!」ユウマは両手を地面にかざし、叫ぶ――


「土魔法〈ロックスパイクプリズン!!〉」


『中魔法を使用しました。寿命が五日減少しました』


 ゴゴゴゴゴ……


 地鳴りのような轟音と共に、左右の岩壁が盛り上がり、三角スイの岩の杭が無数に飛び出す。それらは一斉にロックスパイクドッグへと襲いかかり――


 ドシュウゥゥゥンッ!


 雌獣の巨体が、幾本もの岩杭に串刺しにされる。その姿はまるで、古代の拷問器具のようだった。


「ギャアアァァァ……ァ……」


 雌獣の断末魔が渓谷中に響き渡る。


 しばらくもがき苦しんでいたが、やがてその動きも止まり――目の色が、ゆっくりと灰色へと沈んでいった。


「みんな大丈夫ですか!?」


 ユウマが駆け寄ると、皆は串刺し状態のロックスパイクドックの方を向いて、ぽかんと口を開けて立ち尽くしていた。


「……あれ? オレ、また何かやっちゃ――」


「これ……ダンナがやったんだよな?」


 ラスクが、倒れた雌の獣を指さしてユウマを見る。


「これは魔術か? こんなの見たことねえぞ……」


 カイルがごくりと唾を飲み込んだ。


「ファトス王国の魔術騎士の演習見たことあるデスけど、こんな派手なのは初めてデス……」


「治癒魔術もだけど、キリハラ殿って……何者なの?」


 カランがジロジロとユウマの全身を観察。


「このことは……他言せん方がええかのう……国家問題になりかねんわい……」


 ロンが長い顎髭を撫でながら、渋くつぶやいた。


「えっ……いや、その……」


 ユウマは一歩後ずさりしながら、しどろもどろに答える。


「おっと、そうだキリハラのダンナ。オレ、腕ケガしちゃってさ、治癒魔術お願い」


 ラスクが、かすり傷から血が滲む腕を差し出す。


「あ、はい――」……しまった! つい返事してしまった。いや、治すの!? かすり傷を!? ユウマがたじろっていると――?


「ラスク! ユウマがコストなしで魔術を使えるとでも思っているのですか?  あんな強力な術を使ったばかりで、今は相当消耗しているはずですわ。それにその傷は、あなたが訓練をサボってた結果じゃないですの! そんなことだから――」


 ククルが腰に手を当て、つかつかと詰め寄り、怒涛の説教モード突入。


「じょ、冗談だよ! 冗談! そんなムキになるなって! ロック、化膿止め、くれ!」


 ラスクはそそくさとロックのもとへ逃げるように退避した。


 まあでも、そうなるよな……<ソウルサクリファイス>の事を言うべきなのだろうか?……でも、治癒魔法をかけておいて自分の寿命使いましたとは言いにくい……魔法を使うタイミングを間違わないようにしないといけないな……


 ユウマはククルに追いかけられているラスクを横目に思う。

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