第15話 【対ロックスパイクドッグ戦】

【対ロックスパイクドッグ戦】


「この先は道が狭い……ここで迎え撃つしかない!」

 

 カイルは覚悟を決めたように呟く。


「馬を失うわけにはいかん。降りて戦うぞ!」


 叫ぶなり、彼は鞍から軽やかに飛び降りた。ユウマも続き、他の仲間たちも次々と馬を降り、武器を手に取る。


 ユウマとカイルの前には、一匹のロックスパイクドッグが立ちはだかっていた。

 地球にいる犬とは似ても似つかぬ異形の存在だった。顔立ちにかすかに犬の名残を感じるものの、全身はくすんだ青色の硬質な毛で覆われ、背にはヤマアラシを思わせる無数の棘が突き出ている。その棘の先端は、不気味に赤く染まっていた。

 脚には毛がほとんどなく、鋭く湾曲した三本の爪が土をえぐるように踏みしめている。

 

 低く唸り声を上げながら、大型犬よりもさらに一回り大きい獣は今にも飛びかからんばかりに身を低く構えている。


 一瞬の静寂が場を支配する。

 

 その静けさを破ったのは、カイルの目の前にいたロックスパイクドッグだった。鋭い唸りとともに、青い塊が飛びかかってくる――!


 それが開戦の合図となった。戦場が一気に動き出す。


 カイルは飛びかかってきた獣に対し、大剣で受け止めた後、獣ごと横薙ぎに払う。獣は身体をひねり、地面に爪を突き立てて着地する。すぐさま次の攻撃に備えて身構えた。


「単独行動は危険デス! カバーできる範囲で戦うよ!」


 ロックが警告の声を上げながら、素早く弓を引き絞る。矢は風を裂き、ロックスパイクドッグの横腹を正確に射抜いた。だが――獣は怯まない。血をにじませながらも、獰猛さを増したようにロックへと飛びかかってきた。


「任せて!」


 カランがすかさずロックの前に躍り出る。構えた盾が獣の体を正面から受け止め、鈍い衝撃音が響いた。その勢いを利用するように、カランは右手のアックスを振り下ろす。


「浅いわ!」手応えはあった――だが、致命には至らなかった。獣はなおも牙を剥く。


 一方、ラスクは二本のショートソードで応戦していたが防戦一方だった。


「ったく……オスの相手なんてしたくねぇんだよ、オイ! ディム、なんとかしてくれっ!」

 

 泣き言を言いながら、辛うじて獣の爪をいなし続ける。


 だが次の瞬間、ショートソードが弾かれた。獣の鋭い爪がラスクの胴を切り裂こうと振り下ろされる――その刹那。


ズバッ――!


獣の体が縦に真っ二つに裂けた。裂けた肉の隙間から現れたのはロングソードを構えたディムだった。


「まったく……精進が足りんぞ」ディムがボソッと言う。


 ククルは三匹のロックスパイクドッグに囲まれながらも、軽やかに身を翻し、その鋭い攻撃をことごとくかわしていた。しなやかな動きはまるで舞うようで、その青い瞳は獲物の動きを冷静に見据えている。


 一匹が木を背にした瞬間、ククルの瞳孔がすっと開く。次の動きに一切の無駄はなかった。

 手にしたランスを鋭く振りかぶり、矢のように投げ放つ。鋭利なランスはロックスパイクドッグの開けた口を貫き、木の幹にそのまま獣を串刺しにした。


 ククルは疾風のようにそのランスに向かって駆ける。

 

 背後からは残る二匹が執拗に追いすがってくる。十分に引きつけたタイミングで、刺さったランスの柄に片足をかけ、その勢いのまま宙へと跳躍。空中で身を翻し、二匹の背後へと回り込んだ。


 一匹は止まりきれず、木に激突。


 もう一匹は根本を一周して軌道を変え、ククル目がけて飛びかかる。


 だが、ククルは動じない。その場に直立したまま、左腕をゆっくりと前へ差し出す。


ロックスパイクドッグが牙を剥き、開けた口で噛みつこうとした――


「盾」


 ククルの一言に応じ、左腕の一点が蒼く輝き、そこから黒と青の混ざった光が展開する。

 出現した盾は、獣の開けた口の中で広がり、顎は粉々に砕け、顔面は原型を留めぬまま潰れ、無力な胴体が地面にドスンと落ちた。


 場面は少し遡る。

 

 混戦の中、ユウマは焦りを隠せずにいた。


「魔法を撃ちたいが……この状況じゃ、みんなを巻き込む可能性が」


 視線を彷徨わせながら、機を窺う。


 そのとき――


 林の奥から、一匹のロックスパイクドッグが飛び出してきた。反応が一瞬遅れたが、ギリギリで鋭い爪をかわす。短剣を構えて間合いを取りながら、ユウマは息を整える。


「……ククルとの特訓を思い出せ」


 昨日の言葉が脳裏をよぎる。


「――よいですか? ユウマ、相手の武器ではなく身体全体を見るのです。筋肉の動き、視線、わずかな体重移動……相手が動く、その前に仕掛けるのです」


「筋肉と目の動きか……」ユウマは獣をじっと見据える――だが。


「いやいや!  無理無理無理! どこが筋肉!? 毛モジャすぎて見えないし、目も血走ってるだけなんですけどー!?」


 軽く混乱する。その間にも、獣は再び襲いかかってくる!


 ユウマは短剣でなんとか爪を薙ぎ払うが、反応が追いつかない。攻撃は見えている――だが身体が追いつかない。そんなジレンマを感じていた。


 そして、もう一匹が木陰から飛び出す!


「――やられる!」ユウマは思わず目をつぶった。


 ……だが、痛みは来なかった。


 恐る恐る目を開けると、側面にロンが立っていた。


 前方の一匹は、ロンの蹴りで吹き飛ばされたのか、地面をゴロゴロと激しく転がっていく。そしてもう一匹は、ロンの右腕に抑えられていた。


「ロ、ロンさん!? ありがとうございます、って……噛まれてますよ!?」


 獣はロンの拳を引きちぎらんと、首を激しく振っている。


 だが、ロンは涼しい顔で言った。


「キリハラ君、犬に噛まれたとき、焦って引くのはダメじゃ。余計に牙が食い込むからの」


「えっ……いや、そんな冷静に言われても……」


「じゃあどうすればいいかって? それは……」


 そう言いながら、ロンは腕をぐいと水平に持ち上げた。獣もそのまま空中に引き上げられ、胸の高さでピタリと止まる。


「押し込むんじゃ!」


 その瞬間、パンッ!という破裂音とともに、獣の身体が吹き飛んだ。

残ったのはロンの手首に食いついたままの、獣の頭部だけだった。


 ロンが腕をぶん、と軽く振る。ぼとりと頭部が落ちる。


「と、いうライフハックじゃよ」

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