その手に触れたい
白雪苺
第1話 次の番号
日が伸びてきて、心做しか暖かな匂いがして、窓の外には桜の花びらが風に舞っている。
「―ろくばん!」
「26番!三重小春!」
「あ、はーい!」
「登校初日から考え事か?まぁ春はぼんやりするものか、じゃあ27番、村田隼人」
…
「おい!村田隼人!」
「あ、はい。」
「お前も考え事かー?窓側の席はみんなぼーっとしてるなぁ、まったく、先が思いやられるよ」
掲示されているクラスの中から自分の名前を探し、見たことも聞いたこともないクラスメイトの名前に目を通す。
入学式が終わり案内された教室に行き、今は担任が生徒たちの名前を確認していたところだった。
他学年のいない校舎には1年生の教室のみ全ての席が埋まっている。
初日から先生の話に集中してないなんて変な人もいるもんだな。
普通、もっと緊張してるものじゃないの?
そんなことを考えていると後ろから肩を2度軽く叩かれた。
席に座ったまま振り返った先には先程ぼーっとしていた変わり者が変な顔でこちらをじっと見つめている。
「なあに?」
もしかして一目惚れかなにかではないだろうかと考え、学校に来る前にひたすら鏡の前で練習した笑顔を実践してみせた。
「あの、それ。プリント回して貰えますか?」
不思議に思い自分の手元を見ると先生に配布されたプリントが5種類。
「おー、もう全部後ろに回ったか?」
担任の声と後ろの席の変わり者の不思議そうな顔に焦り後ろにプリントを回したあと、申し訳なさから後ろの様子を伺っていると彼の長いまつ毛が視界に入った。
先程は変わり者という印象が強かったせいかあまり顔を見ていなかったが、よく見ると整った顔をしている。
気付けば彼の真っ黒で艶のあるまつ毛からは目が離せなくなっていた。
ひとめぼれだ。
「ねえ、きみ、名前なんだっけ」
そう聞くと彼は整った顔でこちらを見つめ直した。
「村田隼人。村田でも、隼人でも。きみは?」
「私は三重小春だよ。三重って呼んで。」
「小春じゃだめなの?」
「小春はダメ、彼氏しかダメ!」
「彼氏いるの?」
「それはいない、けどダメ!」
小春は彼氏ができたことはなかった。ただ大事な下の名前は彼氏しか呼んだらいけない。それは小春が幼い頃から何故か小春の中に存在する信念の1つだった。
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