第4話 映えるデザート

「映えるデザートはね、ピンクで輝いてて、ハート型で、SNSにあげたらバズるやつ!」

 太郎は今度こそ本当に頭を抱えた。

 女子高生の幽霊にはそんな太郎が見えないのか、カウンターに身を乗り出して、黒いスマホを振り回す。

「黄泉でもトレンドに乗らないと!」

(黄泉のトレンドってなんだよ……そもそも黄泉の国ってWi-Fiあんのか?)

 熱く語る女子高生幽霊との温度差で、風邪を引きそうなぐらい冷たい視線を放つイザナミに助けを求める。


「……ということなんですけど、何かいい材料はありませんか?」

「……あるよ」

(あるんだ!?)

 縦長の箪笥のような引き出しから、イザナミが黒い物体を取り出した。

「これは『影の果実』。黄泉の樹に実る果実だ。恐れや怒りなどの暗い気持ちを吸収する」

「あの……どうでもいいんですけど、さっきからこう……ちょっと厨二魂がくすぐられる名前なんですよね」

「魂? なら、いいんじゃないか?」

(あ、しまった。ここは魂を相手にする店だった)

 でこぼこした表面だが、艶があって黒光りしている。太郎が持ってみると、りんごぐらいの重さがあった。


 老幽霊に出したスープは及第点だった。

 黒くて苦い液体はもう作りたくないが、初めて黄泉の国で料理をして、なんとかやり遂げた自信は少しだけある。

(でも、スイーツって……しかも、映えるってどういうのだろう)

 作業台の前でうんうん唸っている太郎に、イザナミは「魂の声を聞け」と囁いた。

「あっ……その、えっと、女子高生さん」

「ん? なに?」

「魂の声を……聞かせていただきたいんですけど」

 女子高生幽霊は、一筋だけピンク色に染めた髪を指でくるくる回した。

「あ、さっきおじいちゃんが言ってたようなやつ? うーんとね。難しいことじゃないんだよ? 家族に会いたいなって思うの。そんで友達とも会いたい。会っていっぱいおしゃべりしたいのにできないのが悲しいの。戻りたいの」

 やはり、戻れないのか。太郎もそれが知りたかった。

 幽霊というのは現世に何かしらの思いを残しているから成仏できず、ひゅ~どろろと現れる。だとすれば、こんなところで悠長に食事するよりも、現世に戻って残した思いを回収すればいいんじゃないだろうか。


「そんなことしたら、現世が幽霊だらけになってしまうぞ」

「うわぁ。人の考えてることを勝手に読み取らないでくださいよ」

 イザナミは悪戯が成功して嬉しいのか、目元がほんのり和らいでいる。

「しょうがないだろう。私にはそういう能力が備わっているんだから」

「都合がいいなぁ……」

「現世が幽霊だらけにならないように、私がここで見張り番も兼ねているのだ。私が居なければ、現世はもっと幽霊だらけになっているんだぞ」

「……じゃあ、そういうことでいいです」


 それにしても、と太郎は不思議な材料を前に考える。

 どれをどうすれば、女子高生幽霊がリクエストする「ピンクで輝いてハート型」になるんだろう。

(イザナミさんが出してきた影の果実ってやつを使うとして……)

 太郎は材料を手に持ち、鍋の前で深呼吸をした。イザナミが後で「焦るな」と呟く。目が厳しく、まるで監視しているような表情だった。

(プレッシャーかけすぎ!)

 頭を掻きながら、太郎は材料を見据えた。

 記憶の霧を少し鍋に入れる。魂の灯火も多めに取った。光があればピンクっぽく見えるだろうと考えたのだ。そして、影の果実を少し加えようと手にすると、突然弾け、黒い汁が彼の顔に飛び散った。

「うわぁ! なに、これ? インク?」

 叫びながら慌てて顔を拭いたが、汁は消えない。美容マスクのような、黒いマスクを顔に貼り付けているようになってしまった。

「やばい! 格好いい! 新作コスメ!!」

 女子高生幽霊は、カウンターから大きな声を出しながら拍手した。

「褒めてる? ねぇ、褒めてるの??」

「ウケるー!」


 未練の根ほど視界を遮らないのを良いことに、太郎はこのまま料理することを決めた。なぜなら、イザナミが後方から射るような視線で睨んでいるからだ。

 慌てて鍋に材料を投げ込む。記憶の霧と魂の灯火が混ざると、確かにピンクがかった光が現れたのだが、影の果実の影響なのか、黒い渦に変化し、何故か鍋ごとぐるぐる回転し始めた。

「え、動いた!?」

 太郎は後ずさりしたが、鍋はカウンターを飛び越え、女子高生幽霊の前に着陸した。

「すごい! これ、動くデザートじゃん。動画、動画!」

 興奮しながらスマホを構える。

「タグは『#黄泉スイーツ』『#動くケーキ』でしょ」

 鍋の回転は止まっていなかった。何を動力にしているのかさっぱりわからないが、鍋は勢いをつけて回ったかと思ったら、また飛んだ。飛んで、彼女の頭に張り付いた。

「うわ、くっついた! やばい! でも、これ映えてない?」

 ケラケラ笑いながら自撮りする。

「黄泉アクセサリー、爆誕」


「逞しいな……」イザナミは若干ひいている。

「戦場でもこんなおかしなものを見たことがない」老幽霊も呆れている。

「欲しい!」子供幽霊は椅子の上で小刻みにジャンプしている。

(失敗した……また、失敗した……)

 太郎は青ざめた顔でうずくまった。


「まあ、形は変だが魂は入っていたんだろう。彼女の顔を見てみろ。あの楽しそうな顔を」

 女子高生幽霊は、角度を変えて写真を撮りまくっている。気に入っているからこそ、写真を撮っているのだと思えば、太郎の苦労も少しは報われた。

「次はバランスを考えろ」

 意外と冷静なイザナミの声に、太郎は顔を上げた。よく見ると、店の中が少し明るくなっている。

(イザナミさん、笑ってる? いや、気のせいだな! うん!)


 女子高生幽霊は散々写真を撮った後、デザートをスプーンですくって一口食べた。

「うん、切なさと希望の味。ちょっと粘着質だけど、映えの味がする」と、満足そうに微笑んだ。

 太郎は胸を撫で下ろしながら「これでいいの?」と聞いた。

「うん。でも、次はもっと輝かせて。おかわりできる?」

 それにはイザナミが答えた。

「食べ過ぎたら太るぞ」

「ひぃっ!」

 幽霊でも見た目にこだわるんだ、と太郎は変なところで感心した。


 また失敗した。でも、なんだか楽しい。太郎はカウンターに並んでいる幽霊達を順番に眺めた。

 料理の失敗が幽霊達の笑いにつながり、楽しそうにしている彼らを見ていると、恐怖が少しだけ薄れているような気がしたのだ。

「次は子供の注文だぞ。いたずらが入っているやつだが……気をつけろ」

「それはただの警告じゃないですか……また大変なことになりそうだ……」

 さぁ来い! と胸の中で身構えて、太郎は拳に力を込めた。

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