お久しぶりです。言われた通り、大人になったので結婚してください

久遠ノト

01 三度目の婚約破棄



「君との婚約を破棄させてもらう」


 破かれた紙がパラパラと机の上に散った。


「可愛げのない……。女らしくないのだ、お前は」

 

 なんて捨て台詞を残して、彼はテーブルから去っていく。そして、店を出る手前に右頬をなぞるような仕草を見せて。


「傷物の君なんて、金を積まれても誰も結婚しないだろうさ!」

 

「……そうですか」


「ふんっ。最後の最後まで可愛げのない」


「やっと終わったの~?」


 外に待っていた女が入ってきて、男の手を抱いた。

 男はその女を見て、優しく微笑む。

 やってきた女は椅子に座っている私を見て、勝ち誇ったような顔を浮かべた。


「早く行こ~」


「ああ、やっと君との時間を増やせるよ」


 キャッキャウフフと店の外に出ていく二人を見送る。静まり返る店の中、私は店主に会計を頼んでお金を払っておいた。


 アレが知らない女ならまだ良いんだけど……。


「また姉さんに取られたか……」


 これで姉に婚約者を奪われるのは三度目だ。



     ◇◇◇



 私の名前はリアナ。

 ドロシーエイト子爵家に生まれた三女。


 上に二人の姉を持ち……今日で三度目の婚約破棄を受けた女だ。

 

「度数がいっちばん高い酒を持ってきてちょうだい」


「リアナ……もしかしてまた」


「ええ、姉さんにね」


「ああ……」


 店主も絶句。私は苦笑いを浮かべ、小さなグラスの中身をそのまま呷った。

 

 一人目の男は長女とベッドの上で寝てるのを目撃し、「君に愛想がないからだ!」となぜか私のせいにしてその場で婚約破棄。


 二人目の男はなぜかデートに次女を誘うようになり、気がつけば私抜きで遊ぶようになって「お姉さんと一緒にいる方が自分をさらけ出せるんだ」と婚約破棄。


 三人目はさっきの奴だ。次女に持っていかれた。時間が増やせると言っていたから、裏で会っていたのだろう。


「なんでアンタのお姉さんはそんなことをするんだろうねぇ」


「人のモノって魅力的に見えるんだってさ」


「それだけの理由で?」


「それだけの理由で人のものを取れるし、奪えるのよ」


 昔から姉さん達は変わらない。不満はあるが、慣れていた。ただ……婚約者にまで手を出してくるとは思わなかった。


 一度や二度ならまだ偶然かと割り切ろうと思えば──無理があるし、限度はある──割り切れるが、三度もされればさすがにわざとだと気付くし、愚痴も出てくる。


 そしてタチが悪いのが、自分のモノになったらポイするのだ。


 姉さん達は二人の元婚約者とは既に会っていない。あの三人目ともすぐに会わなくなるだろう。


(まぁ、父上が取り付けた相手だから、別に構わないんだけど)


 一人目は領地の産品の取引先。これからもよろしくって意味の婚約。


 二人目はしつこく来た美術商。もう来んなよという意味の婚約。


 三人目は戦争で武勲を打ち立てたばかりの男。家の戦力拡大のための婚約。


 令嬢は爵位持ちの長男や次男と婚約して~という話はだいたい長女や次女まで。三女はこういう立ち回りをさせられやすいのだ。


「こんなことなら、あの時の子どもと出ていけば良かったわ」


「子ども?」


 店主の疑問に右頬の傷跡に触れて見せる。


「野戦病院でね。そこで大きくなったら結婚しよって言ってくれた子がいたの」


 数年前におきたモンスターレイド。それに私の家も騎士団を向かわせた。


 そこで、父が「騎士や貴族とお近づきになれるかもしれん」と言いだし、私を騎士団に同行させた。数カ月にも渡った野戦病院のお手伝いはそりゃあもう大変で……暴れる騎士に襲われ、右頬を切りつけられてそれが残った。


 そんな場所で、真っ直ぐに好意を向けてくる少年と出会ったのだ。


「懐かしいなぁ……」


 黒髪で綺麗な金色の瞳の子だった。変声期をやっと終えたばかり程に見える少年だ。そんな子が私の服を掴み、

 

『お姉さんっ、僕と結婚をしてくれませんか!』


 と言ってきたのだ。

 私は混乱してるのだろうと思って、


『大きくなったらね』


 と優しく言った。

 今思えば『分かった! 婚約書はコレね!』としておけば良かったのだ。


 あー、大きくなったらかっこよくなってただろうなー……。戦争に来てるってことは、どこかの貴族令息だろうし。


 ──カランカラン。


「あ、いらっしゃい。1人かい? 適当な場所に座りな」


 来客らしい。

 そちらにふいと視線を向けると、黒いローブに身を包んだ人物が立っていた。

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