第0話 転生前

「ん……」


次に目を覚ますと、俺は見知らぬ場所にいた。そこには、真っ白な空間だけが広がっていた。生き物の気配も感じない。


「ここはどこ? 俺は三剣城みつるぎ。」


病院じゃなさそうだが…。そんなことを考えながら、周りを見渡していると、後ろから声が聞こえてきた。


「目が覚めましたか。三剣城響輝みつるぎ ひびきさん」


「……! 誰だ!」


「そんなに警戒しないでください。私は敵ではありませんよ」


「ゆき……ね?」


「私は雪音さんではありませんよ」


そこにいたのは、金髪の一人の女性だった。その顔立ちは雪音と見紛うほどに美しい顔立ちをしていたが、雰囲気は違う。雪音はほんわかした雰囲気を纏っていたが、この人は凛とした雰囲気だった。


「ところで、あなたは誰です?」


「申し遅れました。私はルカと言います。あなたにも理解しやすい言葉で言うと、いわゆる『神』です。」


髪?……いや、神だな。てことは、やっぱり俺は死んだんだな。


「神……ですか。やはり俺は死んだんですね」


「はい。残念ながら、あなたは亡くなりました」


「ですよね…。雪音はどうなりましたか?」


「雪音さんは生きていますよ。流石に無傷ではないですが、命に別状はありません」


「それならよかったです。体を張った甲斐がありました」


「救急隊員が駆けつけるまで、あなたのそばで声をかけ続けていましたよ。心臓マッサージもしながら。あなたが亡くなったことを駆けつけた救急隊員の人に告げられた時は、茫然自失という感じでしたが。」


「そう……ですか」

頼むから、自殺なんてしないでくれよ。俺は後追いなんて求めてないからな


「いい恋人さんですね」


「ええ。俺には勿体無いくらいですよ」


そういえば、最後に聞こえた声はなんだったんだろう。ルカっていう神様の声に似てる気がしたけど


「さて、そろそろ本題に入りましょうか」


「本題? もしかして、ラノベとかでよくある転生ってやつですか?」


「話が早くて助かります。その通りです。あなたには、別の世界に転生していただきます。その世界は、魔法やスキルが存在するファンタジー世界です」


「なるほど。ラノベとかと同じですね。その世界での俺の役目とかはあるんですか?」


「特にはありません。あちらの世界で自由に過ごしてくれれば結構です」


「では、なんで俺が別の世界に行く必要があるんですか?」


「あちらの世界は技術の発展が遅くてですね……。定期的に技術の発展している世界から人を送り込み、技術の発展を促そうとしているのですよ。いわば、あちらの世界の技術を発展させるためですね。もちろん、元の世界の記憶は引き継がれますよ」


「技術の発展って……。記憶を引き継いだとしても、俺にはそんな誇れるような技術はありませんよ?」


「私は、あなたが持つ技術ではなく、発想力を評価しているんですよ。おそらく、あなたはあっちの世界でもいろんな技術を思いつくと思いますよ。なんせ、元の世界にはない”魔法やスキル”といった概念があるんですから。」


「そうですか。まあ、俺を別の世界に転生させたい理由は理解しました。できるだけやってみます」


「ありがとうございます。ところで、何か欲しいスキルとかはありますか?与えられる範囲で希望通りのスキルを授けますが……」


「それなら、魔法は使えるようにして欲しいですね。こう見えて、元の世界ではオタクってやつだったんで、魔法は使ってみたいんですよね」


「分かりました。では、いくつかの”特殊属性”が発現するようにしておきますね。他に希望はございますか?」


「あとは、強い肉体が欲しいですね」


「分かりました。それぐらいなら問題ありません。他に希望はございますか?」


「いえ、もう大丈夫です。ところで、一つ気になっていたんですが、俺が死にかけている時に聞こえてきた声はなんですか?何処となくあなたの声に似ている気がしたんですが」


「あの声ですか……。あの声は私の声ですよ。あなたの最後の願いを叶えようと思いまして」


「俺の、最後の願い、ですか」


てことはあれか? 『生まれ変わっても雪音と一緒にいたい』っていうやつか?叶うのなら嬉しいが…。どうやって叶える気なんだ?


「俺の願いをどうやって叶えるおつもりなんですか?」


「あまり詳しくはいえませんが、あなたが転生した世界に存在する国が”異世界人の集団召喚”を行うのです」


集団召喚…。てことは、召喚される中に雪音がいるってことか


「なるほど。理解しました。最後に一つだけお願いがあるのですが……」


「何でしょう?」


俺は、首にかけているペンダントを見せながら言った


「このペンダントをあちらの世界に持っていきたいのですが、可能ですか?」


「それは…確か雪音さんから送られたプレゼントですよね?」


「はい、そうです」


このペンダントは、付き合ってから一年の時のデートで買ったペアルックのものだ。ペンダントの中央には俺のイニシャルが入っている。俺が持っているペンダントは三日月型で、雪音が持っているものは太陽のような形をしている。ちなみに、この二つのペンダントはくっつけることができる。初めは少し恥ずかしかったが、今となっては、俺の命と同じくらい大事な宝物である。


「問題ありませんよ。ただし、あまり人前では出さない方がいいと思います。盗まれる可能性もありますからね」


「分かりました。それが聞ければもう十分です。いつでも転生できます」


「そうですか。それでは転生させますね。それと私からの餞別ということで、とある祝福ギフトを授けます。詳細についてはあちらの世界で確かめてみてください」


その言葉の後、俺の体が光り始めた。


「あなたの人生に幸が在らんことを」


そんな声が聞こえると同時に俺の意識は消失した。

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