百目鬼家、一家心中した結果 全員同じ世界に転生してしまう。異世界で百目鬼家は本当の家族になれるのか?

毒の徒華

プロローグ




 これは所謂いわゆる、一家心中というやつだ。


 ガタン!!! バシャァアアアアア!! ……ザザザザザザザ……


 その音が最後に聞こえた音だった。

 寒い空気と冷たい水の感触が僕の身体中を刺す痛みだけが鮮明で、口の中いっぱいにしょっぱい味がして、息ができなくて、苦しくて、苦しくて……声も出せなかった。


 僕らは皆、光のない海の底に沈んでいく。


 やっと苦しみが終わった頃には僕ら百目鬼どうめき一家の父さん、母さん、兄さん、僕は全員死んだのだ。




 ***




 次に気がつくと僕ら百目鬼家の全員は真っ暗な空間にいた。

 立っているのか浮いているのか分からない。


 そして目の前には複数人の人たちが椅子と机について座っていた。

 テレビで見たことがある。

 ニュースでやってる事件の裁判所みたいなところ。


百目鬼どうめき家の一同か」


 その座ってる人たちの真ん中にいる人が僕らを見てそう言った。

 座っている人たちは老若男女色々な人たちが座っている。


 僕も、母さんも父さんも兄さんも何がおきたのか分からなくて、ただただその空間で驚いているだけだった。


 僕たちが死んでしまった事だけはなんとなく分かる。

 多分全員はなんとなくそれが分かっていると思う。


「ここは裁定所。これから点数をつけていく。50点以上は天界へ、49点以下は地界へ送られる」


 天界と地界。

 まるで子供の頃に読んだ絵本に出てくる天国と地獄だ。

 光に満ちた優しく暖かい場所と、炎が燃え盛る場所や氷に覆われた凍てつく海などを僕は想像する。

 僕たちの人生が、そんな2つの場所に分けられるなんてまだ現実として理解できなかった。


 理解が追い付かないまま、まるで流れ作業のように裁定という儀式が始まった。


百目鬼浩介どうめきこうすけ、10点、地界行き」


 短い宣告だった。

 父さんの名前が呼ばれ何の説明もないまま低い点数が告げられる。

 父さんは呆気にとられていた。何か言おうとしているようにも見えたが、声は出ない様子だった。


 そのまま無慈悲な流れは止まることなく、次の裁定へと移る。


「次、百目鬼春香どうめきはるか、0点、地界、最下層行き」


 僕は凄く嫌な予感がした。

 父さんと同じ地界行きなのに「最下層」という追記がされた。最下層とは一体どんな場所なのだろう。

 父さんの時よりもさらに嫌な予感が、僕の胸を締め付ける。

 母の顔を見ると、理解が追い付いていないのか茫然と前を見つめているだけだった。


「次、長男の百目鬼煌大どうめきらいと、21点、地界行き」


 兄さんは高校に入学後に自分の部屋に閉じこもっていた。

 21点という点数が兄さんの今までの人生をどのように映し出しているのか、僕には想像もできない。

 兄さんはただ黙って裁定を下す人々を睨みつけている。


 今まで全員が地界行きだ。

 この流れだと次は僕の名前が呼ばれ、そして地界行きを宣告されるのだろう。


 でも父さんと母さんと兄さんとみんな一緒なら……どんな場所でも僕は怖くない。

 そんな漠然とした考えがある。


「次、次男の百目鬼宝石どうめきじゅえる、84点、天界行き」


 ――え……僕だけ天界行き……?


 僕も当然地界行きを言い渡されると思っていたので酷く動揺する。


「以上。閉廷とする」


 何が何だか全く分からないまま、短い宣告がこの異様な儀式の終わりを告げた。

 場の雰囲気は重く、僕ら家族は誰も言葉を発しない。

 僕たちそれぞれの心がズシリと重くなり……彼らに何を言っていいのか分からないという沈黙が続く。


 難しい事は何も分からなかったけど、僕は家族と離れ離れになってしまうということだけは分かって、父さんと母さんの手を強く握った。


「ん? どうした宝石じゅえる。お前は天界行きだ。嫌なのか?」


 その声は先ほどまでの冷たい突き放すような響きとは異なり、ほんの少しだけ不思議そうで優し気に聞こえた。


 僕は喉の奥が塞がれたように言葉を見つけられなかった。

 ただ、父さんと母さんの冷たくなっている手をさらに強く握りしめることしかできない。

 僕の頭の中は「家族と離れて一人になる」という結果への不安でいっぱいだった。

 言葉の代わりに何度も何度も、必死に首を横に振って「家族と離れるのは嫌だ」ということを主張するしかできない。


 一人で別の場所に行きたくない。

 一人ぼっちになりたくない。


 僕はただそれだけしか考えられなかった。


「天界行きの者が説明を求めた場合のみ、この裁定所は説明をする。説明が必要か宝石じゅえる?」


 この空間が何なのか、何が起こっているのか、なぜ僕だけが天界へ行くのか僕たちは全く理解できていなかった。

 だから、説明してくれるのならそうしてほしいと何度も何度も頭を縦に振って説明を求めた。


「よろしい。ここは人間用第1裁定所。死者の行き先を初めに決める場所。本件は2025年1月3日に百目鬼春香どうめきはるかが一家心中を目的に自分を除く家族全員に対し、睡眠薬を食事に混入させる形で意図的に摂取させ、その後睡眠薬で眠った百目鬼家全員を車に乗せたまま海に向かって同車にて突入し、もって全員溺死させたものである」


 その無感情な説明は冷淡に事実だけを告げた。


 母さんが僕たちを眠らせて意識のないまま冷たい海の底へと引きずり落とした。

 その行為の背後にあった母親の感情を、10歳の僕は理解することができなかった。

 ただ、父さんと兄さんの体が事実を聞いた瞬間、目に見えて硬直したのは分かった。


 父さんと兄さんは母さんを言葉で責め、暴力を振るおうとしたけれど不思議な力によって完全に動きを封じられ、声すら出すことができない状態だった。

 何も言えず動けない状態だが、その目は強く母さんを睨みつけており、渦巻いているであろう感情がその硬直した体から痛いほど伝わってきて僕は怖かった。


「地界行きの者には本来説明は省略するが、天界行きの者が望めば内訳を説明する。聞きたいか宝石じゅえる


 また僕は必死に頭を上下に振って聞きたい意思を伝える。


百目鬼浩介どうめきこうすけ、43歳、内科の医師。医師になった直後は懸命に仕事に打ち込んでいたが、徐々に仕事がいい加減となりろくに患者の言葉を聞かなくなっていた。その結果病気が悪化した患者は数知れず。また父親として百目鬼家での振舞は粗悪なもので、妻の春香とはほぼ毎日口論をし、長男の百目鬼煌大どうめきらいとの不登校に対しては真摯に向き合わず放置した上、次男の宝石じゅえるに対しても不義の子であると疑念を持ち愛情を与えなかった。利己的な振る舞い、責任の放棄を鑑みるに、人生の前半の功績を考慮しても最終決議は10点。地界行きである」


 その言葉は、鋭い棘のように僕の胸に突き刺さった。


 ――父さんが僕を自分の子供ではないと思っていたなんて……


 僕が思っていたよりもずっとショックな事であり、心の中で何かが崩れ落ちるのを感じた。

 あまりのショックに自分が一体何者なのかすら分からなくなる。


 父さんの考えていた事実に意識を奪われ、僕が混乱している間にも無情な裁定の流れは止まらなかった。

 次に、その冷たい声は母さんの名前を呼んだ。


「次に百目鬼春香どうめきはるか、46歳、専業主婦。減点評価は数えきれない程あるが、家族が自分の思い通りにならないという身勝手な動機で家族全員を巻き込み殺害した罪は大きい。0点。地界最下層行きである」


 母さんの裁定は短い言葉で終わった。

 父さんの件のショックが尾を引いて次の説明の理解が遅れるが、その言葉の重みと事実が僕に更に重くのしかかる。


 それだけじゃ終わらない。

 次は兄さんだ。

 兄さんはどんな評価なのだろうか。


「次に百目鬼煌大どうめきらいと、17歳、高校には所属しているが不登校。父や母からの期待に応えようと邁進し進学校へ入学したが、その後学校に馴染めず不登校が始まる。1日中部屋にこもりきりで母親と罵詈雑言の喧嘩は日常茶飯事で、その際に家の物品を破壊する行為が度々見られた。友人を騙して高額なパソコンを窃取させ、その罪を友人に着せたまま黙認した罪は大きい。そして起床時間はほぼパソコンでネットゲームをするばかりで、両親の言葉に耳を貸すこともなく改善しようという姿勢が見られなかった。また、弟の存在を日常的に無視し、弟が助けを求めてもそれを意図的に無視した結果、弟は一週間の入院が必要な程の体調悪化を招いた。総合的な減点評価で21点。地界行きである」


 兄さんは淡々と自身の以前の行いを告げる裁定者たちを、怒りと憎悪を宿した目で睨みつけている。

 喋ることができたら怒鳴りつけているかもしれない。


「最後に百目鬼宝石どうめきじゅえる、10歳、小学生。将来表を見れば一家心中に巻き込まれなかった場合、22歳で大学卒業後は生活支援カウンセラーに就業。あらゆる人々の人生に寄り添って数多くの人々を救う。また将来は愛犬を家族とし、愛犬に一身の愛を注ぐ。配偶者はなし・子孫はなし、家族と絶縁という点において多少減点はあるものの、84点。天界行きである」


 ――僕が……家族と絶縁……?


 絶縁だなんて僕には考えられないことだった。

 僕は父さんも母さんも兄さんも好きだ。

 ちょっと問題があるところはあるけれど、それでも僕は家族が好きだ。


 家族一緒に遊園地に行ったり、旅行に行ったりした記憶が僅かにある。

 兄さんがまだひきこもりになる前の事だ。

 幸せな家庭だった過去は確かにある。


「ぼ……僕は……家族と離れたくない……です……」


 僕が家族と離れたくないという願いを精一杯伝えると、裁定を下していた彼らは、意外そうに顔を見合わせた。

 そして僕たちには理解できない言葉で話し合いをして合意を交わしているようだった。


「よろしい。天界行きの者の特権として認める。我々が用意したテストプレイ用の世界で6か月過ごし、その世界での個人・家族の評価をあげれば地界行きである3名も天界行きの権利を得ることができる。しかし、宝石じゅえるに関しても再度採点となる為、その時点での評価如何では地界行きの可能性もある。それでも家族の為に特権を行使するか?」


 地界という場所がどんな場所なのか僕は分からなかったけど、多分地獄のような場所なのだろうと思う。

 地獄に行くと自分の罪の重さの分だけ鬼に苦しめられるらしい。

 僕は家族にそんな思いをしてほしくない。


「……はい……」

「許可する。では、テストプレイ用世界『プレオブラジェニエ』で半年過ごしてもらう。年齢はそのまま容姿は世界観に合わせた姿に変わる。言語は日本国で使われている言葉をそのまま使用。名前は世界に合わせた名前に変更。浩介はエイダン。春香はカロリーナ、煌大らいとはジェイ、宝石じゅえるはジェノ、ファミリーネームはクリスタリア。以上」


 裁定が下ったすぐあと、僕たちは意識が遠くなって気絶した。



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