第22話 火花、散る!
「ちちうぇ」
どうしてもっと、きちんと今を生きられなかったのか。
悔やまれる限りですな、
「あぁあぉぉオあぁ!」
姉上の腕にいる
「父上の分まで、ココアちゃんの成長を見届けますよ」
ずっ、と鼻水を啜りゆっくりと立ち上がった。
姉上は俯いたまま動かない。
「ペペラ」
「……何さ」
「偉大なる魔法使いの死を、大陸にいる全員へ報せようではありませんか」
杖を呼び握り締めた。
「
姉上が頭の簪を抜き取ると杖に変わる。
ペペラは蛇女だが、私の半身であり魔女だ。
魔法が気持ち悪いと使わないが、姉上に魔法対決で勝てた試しがない。
「愚弟が姉に命令すんなんざ烏滸がましい話だ。で? 何をするっての」
「盛大と大空に大魔法使いの死を告げる大輪の花を咲かせるのです! このようにっ!」
駆け出し窓から外に出て、室外の露天風呂から杖を宙へと振りかざし、大輪の花火を打ち上げた。
ばん、バチバチ。夜空に大きな音が鳴り響く。
「打ち上げ花火というものです。花のように色とり円状に空を照らし、見た者の心を癒すのですよ!」
続けて杖から花火を放ち、花火を打ち上げた。
「あたしを誰だと思ってんだ! お前のお姉様だよっ!」
ココアちゃんを抱きかかえたまま、宙へと杖で花火を放った。
大きく美しい大輪の花が宙に咲き誇る。
どォん、バチバチバチチ!
「どんな気分だい?」
「……父上みたいなゲス顔はお止めください」
「あんなのと一緒にすんなっ」
尖った歯を剥き出しに言い捨てる。
それに「あぁああア」とココアちゃんも泣き続けていた。
「次に、全世界に向けて父上の死を報せましょう」
「命令すんじゃないよっ、愚弟の分際でっ」
私と姉上は父上の死を至る方向に、どの種族にも父の死が知れ渡るように杖を振るう。
そして、朝方まで宙の大輪が鳴り止むことはなかった。
◆
【ムルイ街】から家に帰ると母上とイグナが食事を囲んでいて、帰宅に椅子から立ち上がった母上が腰に手をあてて私の前に立って尋ねる。
差し出される腕に懐を漁り魔石を取り出す。
「旦那様は死んだのだね。身体は、どうしたのかな」
「魔法で魔石の中に、このように入れて帰って来ました。どうぞ」
「ああ。ありがとう」
魔石を受け取った母上が宙に持ち上げ、中に在る父上の遺骸を片目を瞑り魅入っている。その様子に横からイグナも手を伸ばした。
「
「ほら」
大粒の涙を流す真っ赤な目をしたイグナが、母上から魔石を受け取る。
「あぁああアァああ! う、ぅうう……」
胸に魔石を抱き締めて、膝から崩れ落ちてしまう。
「昨日、……元気だったじゃないかぁあっ!」
イグナから目を離して、母上はピトップの胸元、抱っこ紐の中で動くココアちゃんを見て、誰かに語りかけるように話している。
「その女性が胸に抱いているのが、竜の子どもなのだね」
母上に彼女の自己紹介をする。
「こちらの女性は、……我輩の妻ピトップです」
「へぇ。旦那様と同じ種族の
じろり、と母上がピトップを頭から足の先まで舐めるように見た。
警戒をしているのか、ピトップを調べている様子だ。
「お継母様。初めまして、私はペラドの妻ピトップですわ」
「オレは母親のアガレッタだ。よろしくな、ピトップさん」
姑と新妻の挨拶に、火花が見えた。
ごくり、と生唾を飲み込む我輩の腕を姉上が肘で突く。
「頑張れよ、
「……本当に。父上みたいなドヤ顔は止めて下さいよ」
「はぁあア?」
言い合う展開になりそうであったが「妾の子ども、ココアちゃんなのね? 貴方が乳母なのか?」と立ち上がったイグナが、ピトップの前に立ち、睨みつけている。
ピトップの眉間に深いしわが刻まれ、目も鋭利に吊り上がった。
「乳母のピトップです! 生後間もなくからココア様を――」
「ピトップ。彼女がココアちゃんの母親、彼女に子どもを抱かせてあげてください」
「……はい、旦那様っ」
不貞腐れた口調で抱っこ紐の中からココアちゃんを出し、イグナの前に差し出す。
起きて上機嫌だったココアちゃんの目がピトップと我輩を見て、自身を抱きかかえるイグナへと視線を向けて、にこやかに声を弾ませて笑った。
「ココアっ!」
「うぁあ♡」
ぎゅう、とイグナはココアちゃんを抱き締める。
「母親だと分かるでしょうな」
「匂い? 顔? 子どもはよく分からないね」
姉上も頬を脹らませて納得いかない様子だ。
妹を可愛がってる分、姉上も複雑なのだろう。
「今日から半年間、ここに全員で暮らすぞ。いいよな、ペペラ」
「いいも何も、
「お利巧さんだね」
母上がすれ違い際に、姉上の肩を叩き「ほら、朝食を一緒に食べようじゃない」と食卓へ手招きをする。
「そっちのは、アガレッタの娘なのか?」
「ああ。ペラドと双子の姉ペペラだ」
「次期、蛇の女王か」
ココアちゃんを抱きかかえたイグナの言葉に我輩は耳を疑う。
「姉上が蛇の女王? どういう意味ですかな?」
母上に目を向けた。
視線がかち合い、不敵に唇が笑みを浮かべたのが見える。
「さぁ。楽しい食卓を囲もうじゃないか」
「父上もでしたが、母上も秘密事があるのですね」
「誰からも職業を聞かれたことがないんだがな」
喜々という母上に、我輩たちも椅子に座ると食事を食べた。
その食卓で母上が蛇王家の第7王女、そして聖女だったことが判明した。さらに、あろうことか父上と恋に落ち王族から抜け、庶民になったことを初めて聞かされたが、その先は、また別の話である。
今はただ、父上を愛した2人の女性と昔ばなしに花を咲かせた。
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