閑話1:第一回、家族会議

第8話 その、いちっ!

 心愛ココアちゃんをベビーベットに寝かせ、リビングで家族と乳母の会議が始まる。


 最初、ピトップ殿が私の膝に座ろうとしたが注意をして、長椅子ソファーに座った。

 姉上はとぐろを巻き、父上は走って来た木製の椅子の小さな箇所に、小さな身体を横にして行儀悪く寝ていた。間のテーブルには、私が汲み入れたお茶とコーヒーが置かれている。

 

【議題:1】


「では。第1回、家族会議を始めましょう。議題は、……育児方針と育児分担の2つでよろしいですかな?」


 ぱちぱち、と疎らな拍手が賛同で鳴らされる。


「まず、竜の情報を父上よりを話して頂きます、どうぞ」


 魔法で各数の拡声器マイクを出して前に置いた。

 発言者の声をが拾えるように設定をした。羽根もあり、ふわふわと浮いている。

 父上が、よっこいしょ、と小さな身体を起こし、拡声器を人差し指で叩いて音量の確認をすると口を開いた。


「まず、竜の種族で生まれる次世代の女王は一体だけ。んで。卵が産まれると役目を終えた、古い女王は死ぬんだわ。子どもは半年で成人になって、継ぐ次世代の女王を産むまで不老不死で、群れを長く束ねるのさ」


 室内が、静まり返ってしまった。


「父上の情報で確認なのですが」


「ああ、どんとこい!」

 

 誕生と終焉の一連の関係の短さに絶句を、ピトップ殿の表情も真っ青になるくらい、驚きが隠せない様子だ。

 

「母親の女王イグナは、もう死ぬということなのですかな」


「そういうこと。血眼だよな」


 新しい女王が生まれ、古い女王は袂を分かれる。

 などのご都合な二択では済まないのだ。

 

 半年後、女王が死ぬ。

 萎れて老いていくという身体的状況から、周りの竜たちも匂いで分かるであろう。

 そうなると、産まれたはずの次世代の女王を必死に探すことが当たり前だ。


 自身たち群れのため【血眼】になることは必然と言えるだろう。


 しかしながら、私には関係がないことです。

 

「自業自得なのですがね」


「そう言ってやるなよ、思春期のガキか」


 私が杖を父上に向ければ、目の前に杖があり、我輩の方に向けられていた。

 その行動は幾分か、父上の方が早かったようである。


「ざぁっこ、ざぁあっこぉ♡」


「胸糞が悪いですな」

 

 息を詰めて睨み合う私に「旦那様。会議を進めましょう」とピトップ殿が私の腿を指先で触れられ擽られる。仕方なく私も杖を仕舞えば、父上もにやりと、嫌な笑みを浮かべて杖を仕舞うのであった。


「どっちもどっちだっ。ガキ共は武器を仕舞いなっ!」


 薄い唇を大きく開いて姉上が吠えた。

 父上と同類扱いされたことが腹正しい。


「父上と同じ括りで言われたことは遺憾ショックですね」

 

「それ、父親の台詞なんですけど?」


 また、杖を向けたい衝動を抑えて議題の話を続ける。


「とりあえず、竜の件は次までに考えるとして保留にしましょう。今は育児方針と育児分担を決めないとなりませんからね」


 私はパンパン、と我輩は両手を叩いて鳴らす。


「では、本題の1つ、育児方針から。伸び伸び教育推奨なのですが、他の方は如何ですかな」


 私の進行にピトップ殿も拡声器から「ココア様は竜種族の次期女王です。英才教育をされた方が、彼女にとって将来のためになるかと思いますわ」と意見を述べた。


「英才教育ですか。しかし、まだ生まれて間もな――」


「半年後には成人で、ひょっとしたら竜種族を率いるかもしれません。人間の教育方針と同じに考えてはいけませんわ、旦那様。人間世界との懸け橋となる、でもあるのですから」


 ピトップ殿の意見に納得が出来るものだ。

 私も頷いて受け応えた。


「確かに。この先、何があるか分かりませんね」


 何を思ってか父上も手を挙げた。表情は硬いものだ。


「人間と同じだなんて思うのは止すんだな。相手は竜の血族だからな」


 竜には数多くの種族があれど、本で読んだことのある記憶では【種属】というジャンルも存在する。

 神属。魔属。の2つだ。どちらの種属も群れの頭は【人型】で我が強く、肉食で好戦的、光物の収集癖がある長寿眷属であった。

 よく伝説で倒されているのが、魔属の竜種族なのである。


 共通して言えることは――【敵に回してはならない】という点か。


 「そんな相手の誘いなどに乗らないでくださいよ。下半身猿ドすけべですかな」


「なんとでも言え♡」


 父上に何を言ったところで、この人は性格も掴めなかった。

 だから我輩は、父上との関わりを断っていたのである。だがピトップ殿の怪我もあって、久し振りに会ったが、なんというかやはりというべきか――分かり合えないことが改めて実感しただけであった。


 ふと思いふけってしまっていたると姉上も発言する。


子どもこっちゃんの成長に合わせて、親も一緒に成長するしかないじゃないか。竜なんか本で読んで知るくらいで、見たことも会ったことさえないんだからね。ジジイ以外はさ」


「ええ。その通りですわ、義姉おねぇ様」

 

 ピトップ殿の言葉に姉上も口を半開きに顔を向けた。

 一体、どうしてかは私も「どうされましたかな?」と顔を傾げる。


 気がついた姉上は手を軽く左右に振り顔を逆に向けた。


「では。英才教育を施すということでよろしいですかな? 異議はありませんね」


 まばらに拍手が起こり、次の議題に進めた。

 

「では、次のお題は【育児分担】です」


 ここから譲れない紛争が起こるとは――思いもしなかったのだ。

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