第15話 人と機械と
「時間ぴったり。流石クラヴィスだね。もういい?他の3人は理解できた?続けていい?あと吹雪、息吹寝てるよ。」
「ん。起こしまーす。」
吹雪の瞳が冷たく光を纏い出す。陽はいつの間にか高く昇り、暖かな光を落としている。その暖かな空気を一掃するように、冷たく鋭い迅風が息吹の周りを吹き過ぎたのか、息吹の周辺の床には霜が降りている。
「いやさっむ!俺じゃなかったら死んでね?!」
眠気は吹っ飛んだのか息吹は猫のように高く飛び上がり、少し凍った髪を見せるように摘まんで吹雪に向かって叫んでいる。
「息吹だからあれくらいしないと起きないでしょ。それに、''息吹''なんだから、僕のあれくらいじゃ死なないよ。」
「それはそうだけどさぁ~うわ、霜降りてるし。」
息吹は足元にできた霜をジャリと言わせながら踏む。
「息吹、煩い。続き始めるから静かにして。寝るな。」
息吹が不貞腐れながらも吹雪の所に駆け寄る。どんな扱いを受けようと、やはり息吹の居場所は吹雪の隣なのだと実感する。
「じゃあ理解できたところで、さっきまでの続きいくよ。とりあえず一番報告したかったことの一つは通信ができなくなっていること。それとあともう一つある。」
「通信を一時的に復旧させるために通信ケーブルを向こうに渡す人について…ですよね?」
モルスが間髪入れずにジューに問いかける。
「話が早くて助かるよ。皆クラヴィスやモルスみたいに聡明ならいいのに……。まぁそれは置いておいて。そう、通信ケーブルを向こうに渡せる人。向こうにどんな手でもいいからケーブルが渡って、通信が復旧すればなんでもいい。そういう人を探す必要がある。で、誰か心当たりない?…って言って簡単に思い付くわけもないんだろうけど。」
辺りが静まり返る。陽が完璧に昇りきり、空気はいつの間にか暖かくなって足元の霜も綺麗に溶け乾いていた。チチチッと空から何かの声が聞こえる。恐らく鳥とかいう生物の声だろう。ここに来て間もない俺たちが考えたところで思い付くわけもないので、俺はただぼーっと陽の空気と光を眺めていた。他の3人もおおよそ同じ状態だった。
「あの……今さらなのだけれど、俺たちはここにいてもよかったのかい?入ったばかりの俺たちが知っていいことではないように聞こえるのだけれど。」
閑静とした雰囲気に一石を投じたのはアルムスだった。アルムスの疑問は至極当然のものだった。成り行きとはいえ、突然加入したばかりだ。入ったばかりの毛も生え揃っていないような子鳥状態の俺たちが聞いていいようなどうでもいい議題ではもちろんないことくらいすぐにわかった。
「別にいいよ。聞いた感じ向こうとの間者って訳でもなさそうだし。それに、この''僕''がお前たちには言っていいって判断した。だから、大丈夫。」
そうジューが言い終わると同時に俺たちが入ってきた扉が勢いよく開く音がした。扉が開くと同時にごろごろと転がってきた人影はガンッという音と同時に止まった。どうやらテーブルにぶつかって止まったようだ。
「いったいな…」
その人影はゆっくりと立ち上がり、身体についた埃を払っている。顔は扉からの光で逆光になり見えない。開きっぱなしになっている扉の方を見ると、スカートを履いた女性のシルエットが見える。肩まである髪に反射した光がキラキラと輝く。どうやらその女性が飛んできた男性を投げ飛ばしたようだ。影でわかる体型的に成人男性を投げ飛ばせるほどの力があるとは思えないが、恐らくそうなのだろう。
「ちゃんとしてクだサイ。リーベ局長。ワタシニ投げ飛ばサレるとは情けないデス。」
「いたた…まったく…君に敵う男性は恐らく君と同類だけじゃないかい?」
「失礼な!ワタシもか弱き乙女デスよ!それに、ワタシ以外の女性と形容されるモノには分け隔てなく口説いてらっしゃるではありまセンか。ワタシ以外には!」
「口説いてる訳じゃないんだけどな…それに君は僕にそういう扱いされるのを嫌ってるじゃないか。」
目の前に転がってきた男性と投げ飛ばしたであろう女性がついには口論を始めてしまいそうな雰囲気をものともせず割って入ったのはモルスの冷たい一言だった。
「リーベ局長、レディ.ジェーン。会議に遅れてきておいてその態度ですか?その頭には雲でも詰まっているのでしょうか。ぜひ一度解剖してみたいものですけれど。それにレディ.ジェーン?あなた、そろそろメンテナンスを行った方がよいのでは?発話機能にノイズが混じっていますよ。」
「それもこれもこの極楽蜻蛉な局長のせいデス!今回の問題もアナタがちゃんと見てれば早く気付けたハズの通信障害デス!そのお陰で博士のところにお邪魔する時間もないホド忙しいのデスよ!」
「怒らないでくれよジェーン。折角の可愛い顔が台無しだよ?それにこれに関しては本当に申し訳なく思ってはいるんだよ……」
レディ.ジェーンと呼ばれた女性は靴の音を響かせながら、部屋の中に入ってくる。近づいてくるにつれ、天井の穴から射す光で顔が顕になって行く。机まで転がってきた男性が彼女の歩みに合わせるように振り向いた。二人の金糸の髪が揺らめく。
「遅れてごめんよ。小さな小鳥さんたち。僕はリーベ。WANDでは通信、解析を担当していて、一応通信局局長をしてるんだ。まぁ僕よりもこの子の方が機械にも詳しいんだけれどね。」
「当然デス。このポンコツ局長に聞いてもいまいち要領を得ないトキは、ワタシに聞いてくだサイ。ワタシは''元''自立型汎用戦闘シミュレーションシステム搭載の
テーブルを挟んで俺たちの向かいに立った二人は軽く礼をした後、自己紹介をしながら追加の資料をテーブルに広げる。
「とりあえず向こうに行けそうな人をピックアップしてみたけど、どれも決定打に欠けるね。《
テーブルに両手をつき、リーベは項垂れる。その傍ら、自らを元機械人形と名乗ったジェーンは自らの手を顔の前で握り締めたり広げたりしている。
「……《
リーベと名乗った青年の言った《
「あぁ、国家間
俺とイェネオスが話している間もジェーンは指の関節を動かしては確認している。素人目に見ても動きが悪く、ギシギシと動いているのがわかる。
「……ふむ。これはヤはり早めに博士のトコロに行くべきデスね。リーベ局長。ワタシはこれで失礼しマス。」
徐に手を下げたかと思うと突然そう言い残し踵を返してこの場を去ろうとするジェーンに、リーベは急いで振り返り呼び掛ける。
「失礼するって……どこに行くんだい!?」
「博士のトコロに決まっていマス。とうとう耳まで筒になったかスケコマシ。」
「君酷いな……それにスケコマシは聞き捨てならないよ!僕は今も昔も彼女一筋!知ってるだろう?!」
ジェーンは両手を肩まであげて肩をすくめて見せる。それを見てクラヴィスが言う。
「では僕が彼女について行きましょう。不調のレディを一人にするわけにもまいりません。よいでしょうか?レディ.ジェーン、カイン。」
「俺は構わねぇよ。会議の詳細はあとでジューかリーベに直接聞け。」
「承知いたしました。」
「スケコマシよりは信頼できマス。途中で足が動かなくなってモ困りマス。着いてきてくだサルなら安心デス。」
そう言って、彼女はゆっくり扉へ歩き出した。その後ろをクラヴィスが歩いて行く。その途中、突然ジェーンが立ち止まり振り返って大きな声で聞こえるように言った。
「あ、そうデスよ。局長、アナタが受け渡しに行けバいいのデハないデスか?通信ケーブル。向こうにアナタの''彼女''とやらがいるのデショウ?」
能天気なのか考えなしなのかヴィータは常に笑顔を湛えているが、突然のジェーンの言葉にジューやモルスはその言葉に顔を強張らせた。当の本人は気まずい空気に耐えられず背後のジェーンに助けを求める瞳を向けていたが、彼女はもうすでに踵を返して歩きだしており、こちらを見向きもしないジェーンを見て助けを諦めたリーベは肩を大きく落とした。
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