第3話 与那国島Ⅱ
同時に、久部良漁港の陸自自衛隊駐屯地より、12式地対艦誘導弾でホバーを運搬してきた敵強襲揚陸艦、イージスフリゲート艦を攻撃します。
敵航空戦力への対応としては、敵は殲15、殲20攻撃機を中国本土から向かわせてくるでしょう。予想機数は4機以上。こちらは、03式中距離地対空誘導弾とロシア軍の最新式ステルス機のSu-75、チェックメイト4機で迎撃します。残念ながら空自の戦闘機は石垣島・宮古島・沖縄本島防衛で手一杯です。
12式地対艦誘導弾、03式中距離地対空誘導弾が与那国島に密かに持ち込まれたことを中国は知りません。また、石垣島から飛来するSu-75、チェックメイトも知りません。パイクミサイルという携帯型特殊兵器(グレネード燃料気化弾)を自衛隊水陸機動団に配備したことも知りません。
これらの配置で、絶対に与那国島は中国の手に渡しません。また、島の建築物、住居、インフラへの被害も最小限に抑えます。
「私は残念ながら石垣島・宮古島防衛の指揮を取らねばなりません。与那国島防衛は、畠山三佐、広瀬二尉、その指揮下の水陸機動団400名に委ねます。避難は明日日没後から決行致します。本官からの説明は以上です。エレーナ少佐、付け加えることは?」とエレーナを振り向き彼女に尋ねた。
「ありません。十分です。ロシア艦への見学は予定通り行います。事前に見ておくことも大事でしょう。乗船中、できる限り快適にする努力はいたしますが、軍艦ですのでその点はご留意下さい」
町長はテーブル越しに紺野二佐、エレーナ少佐に握手を求めた。「与那国島だけでも大変な準備、段取り、それが南西諸島全島の防衛まで担当されるご苦労お察しいたします。私たちはこれから島民への全島民避難の説明・説得にあたり、艦船6隻への分乗の島民リストの作成、別離家族への説明、島民の携行する荷物の重量と体積の概算作業を行います」
ただ、一点。全島民避難とは申し上げましたが、私は残ります。シビリアンが全員居なくなっては島の放棄となります。足手まといにはなりません。また、島の地形も熟知しております。お役に立てると思います」
続けて漁労長も「ワシも町長と一緒に残ります。警察署員、消防署員にも打診します。駐屯している陸自隊員の方々よりもワシらの方が海岸線、沖合の地形にも詳しい。水陸機動団に派遣してもらって参謀役をやりたいと思います。足手まといにならないようにいたします。許可願います」
「わかりました」と紺野二佐。「こちらとしても島の状態を熟知している方が残っていただくのはありがたい。しかし、シビリアンが残るということは、行政側の許可が必要です。首相、防衛大臣に打診したします」と紺野。
町長が涙ぐみながら「紺野二佐、エレーナ少佐、与那国島のこと、よろしく、よろしくお願いいたします。ありがとうございます」と言った。
町長が紺野二佐に「紺野二佐、ひとつお伺いしてもよろしいですか?なぜ中国はこの与那国島のような小さな離れ小島を欲しがるのでしょうか?ご説明にあったように台湾東岸からの攻略基地としてこの島と石垣島、宮古島を欲しがるのはわかります。しかし、それ以外に彼らが得をすることがあるのでしょうか?産業と言っても観光と漁業しかない島ですよ?」と尋ねた。
「町長、日本のマスコミは中国の意図を領土欲という観点から見過ぎています。しかし、彼らの本当の意図は中国共産党が永遠に支配し続けるための中華人民共和国という国家の存続、そのためのアメリカ合衆国と対峙できる経済力と地政学的な国土の確立にあります」
どういうことか?と申しますと、中国の国家経済力は現在衰退の一途を辿っています。打ち出の小槌のように金を生み出していた不動産業が現在壊滅的なダメージを負っています。その金を当てにして、経済をハイテク分野に移行する目論見もアメリカの経済封鎖で頓挫しています。
彼ら共産党は気づいたんです。ハイテク、特に、半導体分野のメモリー半導体、システム半導体とその素材がなければ、彼らのハイテク分野の産業はおぼつかないことに。半導体がなければ、これから輸出産業として育成しようとしていたEV車も製造できません。太陽光パネルもそうでしょう?
単なる加工貿易から脱皮中のスマホ、OLEDパネル等もそうでしょう?半導体がなければ、昔の単価の安い手工業のおもちゃ製造や繊維産業に逆戻りなんです。そうなっては、アメリカに追いつくことはできない。世界の中国の覇権を振りかざすことができない、中国人民の生活を補償することはできないことになります。特に、中国人民が不満を持てば、過去の歴史でも証明されているように中国の共産党一党支配が崩れます。また、内戦状態、国家分裂となってしまう。
GDP成長率を彼らの大本営発表の数字、5%以上に保てない彼らに資金はないのです。今までの食いつぶししかなくなります。それも外貨準備でかろうじて価値を保っている人民元も、外貨が入ってこなかったらジリ貧です。人民元の国際通貨化など夢のまた夢となります。
それこ彼らは考えたのです。まず、メモリー半導体は、北朝鮮に南進させて、38度線から36度線の間にある韓国の半導体工場を手中に収めればなんとかなると。邪魔な在韓米軍は36度線以南にある韓国西岸の原子力発電所を攻撃すれば撤退すると。
もちろん、北京は当初そんなことを考えていませんでしたが、北京に反抗的な瀋陽軍閥が北朝鮮を煽って南進してしまった。偶然の結果でしたが、北京としても北朝鮮から韓国のメモリー半導体工場を取り上げれば目的は達します。しかも、朝鮮半島有事となったので、日本の自衛隊も在日米軍も台湾・南シナ海方面だけではなく、東シナ海・日本海へも戦力を振り向けなければならなくなりました。
そうなると、今まで戦力不足で手をこまねいていた台湾侵攻も可能ではないか?と思うようになりました。韓国はメモリー半導体一本の国家ですので、システム半導体を製造するノウハウがありません。システム半導体を手中に収めるためには、どうしても台湾のTSMC工場が必要です。
日本と欧米も、韓国のメモリー半導体がなければ困りますが、かといって、日米のメモリー産業が日本とアメリカ、シンガポールで工場を拡張して増産すればやっていけないことはありません。しかし、これから2~3ナノ工程に移るシステム半導体は、台湾のTSMCの工場がなければ代替地はありません。
こういう話で、領土問題ではなく、中国が狙っているのは、半導体を巡る世界の経済覇権の成就なのです。逆手ですが、半導体がなければ半導体設計能力はあれど製造能力がインテルぐらいしかないアメリカには致命的です。日本と欧州はもちろんです。
しかも、台湾攻略が成功して、西から日本に圧力をかければ、日本を日米安保体制から離脱させ、ハイテク素材産業も手中にできます。台湾・南西諸島さえ手に入れば、監視下の宮古海峡、対馬海峡、宗谷海峡などを通過せずとも、台湾と南西諸島から、宿敵アメリカの庭の太平洋に容易に進出できます。そうなると、アメリカも防衛ラインをグアム・サイパンまで引き下げざるを得ません。そうなれば彼らにとってしめたものです。
「町長、おわかりいただけましたか?与那国島は単なる領土の取り合いではありません。中国以外の世界経済が中国の軍門に下り、中国経済が世界の覇権を奪取して、永遠に中国共産党が繁栄するかどうかの瀬戸際にあります。それが与那国島他南西諸島の運命なのです」
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