健康優良魔法少女ATTACK!!AGO!!GO!!
江土木浪漫
第1話:朝のダウンタウン
行き止まりになっている路地裏に数人の巨漢が宙を舞い、アスファルトに頭から落ちた。
紺色のブレザーを肩から羽織り、同色のスカートをはためかせる少女、石川竜子は黒いショートの髪をかき上げ、うんざりしたようにため息を、白い煙と共に吐いた。
「だからよお、ぶつかったのは悪かったって言ってるじゃねえか。それで慰謝料~とか骨が折れた~とか、んなこと言われてもよお……骨なんたら症か? 大体、どこにでもいるごく普通の女子中学生にたかるなっつーの」
「ど、どこがどこにでもいる女子中学生だテメェ!! なんだそのシャツはよお!!」
地面に崩れた状態で指さしてきた男の顎を蹴り上げる。歯が数本飛び、からんと音を立ててアスファルトに転がった。
確かに少女というよりは少年にも見えるくらい、竜子の胸は小さい。だがそれ以上に目立つのは、血の沁み込んだワイシャツ……もう相当古いものだろう、黒く変色しておりどうやっても取れそうにない。
最初からそういった色、というには色むらが激しい。おまけに、錆びた鉄のような臭いをプンプンと漂わせている。
襲い来る男たちを蹴り飛ばし、壁にたたきつけ、次々とのしていく。その暴れようたるや、まるで鬼の如し。新鮮な真っ赤な返り血が、竜子のシャツを赤く染めていく。
「……噂に違わぬ
この集団の中での頭だろう、ガチガチのオールバックに決めた黒髪の男が煙草をかみつぶしながら、吐き捨てるように言う。
少女はその言葉を鼻で笑い、右手を体に添えてお辞儀をする。
「朝山会にそう褒めてくださり光栄の極み、とでも言っておこうか? 極道さんよ」
「光栄じゃなくて恥だろうがよ、
市立浪川中学校、ここら一帯でも指折りの不良中学であり、中学生ながらに酒・煙草と質さえ問わなければなんでも手に入るという半ば闇市のような状態となっている中学校である。
そして朝山会もまた、浪川市随一の極道であり、動きの速さたるや、山に朝日が差し込むより早いと謡われている。
並の浪川中学校の生徒であれば、流石に極道相手には尻尾を巻いて逃げる。だが彼女はそうしない。何故なら
そしてまた、極道側も引くわけにはいかない。中学生相手に
いわばこの二人の衝突は、浪川市一の悪《ろくでなし》同士の
「で、どうすんだ? テメェも挑むってんなら相手になるけどよ」
中指を立てクイクイッと動かし、竜子は挑発する。
男は、ワックスで固めた髪がぐしゃぐしゃになるのもいとわず掻きむしり、ため息を共に煙草を落とした。
「馬鹿が勝手に
アスファルトで伸びている舎弟の頬を蹴り上げる。歯が飛び出し、室外機の中へと入っていった。
「
「……あぁん?」
吸い終わった煙草を足で踏み消しながら、竜子はにやりと笑みを浮かべる。
竜子としても、わざわざヤクザなんぞに喧嘩を売るメリットは無い。降りかかる火の粉こそ必要以上に消しに行くものの、それ以上の深入りをするつもりは毛頭無い。
相手が
だからこその譲歩。そのまま見逃すのではなく、安いもので手打ちにしようという腹だ。
「……他言無用にするってんなら、その条件
吐き捨てるように舌打ちを鳴らし、胸ポケットから煙草を竜子の目の前に投げ捨てた。そして地面に伸びている子分の脇腹を蹴り起こし、同じように煙草を竜子に差し出させる。
「チッ、やっすい
竜子が吸っている煙草とは銘柄がまた違うが、未成年である以上贅沢は言ってられない。
だが、それが極道の頭の癪に障ったのか、ぴくぴくと眉間にしわを寄せた。
「……極道がよぉ、嘗められちゃそれで終いなんだよ。それもテメーみてーな
頭は懐からナイフを取り出す。刃渡り約10㎝、簡単に心臓を貫ける
だが、竜子は拳を鳴らし、そして
その瞬間、男の中で何かがキレた。
「
腰に構え、体重を乗せた鉄砲玉のごとき突撃。竜子は突っ込んでくる頭に一切臆することなく、ナイフを握っている手を思いきり蹴り上げた。
ナイフが宙を舞い、勢いそのまま顎を蹴り上げられる。男は10cmほど宙に浮かび、アスファルトの路上に崩れ落ちた。
ナイフが男のズボンを切り裂き、パンツ生地がちらりと覗く。
「
意識を失ってのびている頭と、それに肩を貸して逃げていく子分たちを見送ってから、竜子は地面に投げ捨てられた煙草を拾い上げる。
どれも封を切られており急いで吸わなければ湿気ってしまうが、竜子は気にせずに煙草をスカートのポケットに突っ込んだ。
「……はあ、暇だなあ」
新しく咥えた煙草に火をつけ、竜子はこぼすようにつぶやく。
路地裏から大通りに出て、竜子はあてもなく歩く。今日は平日ではあるが、竜子は授業をフケて適当に歩いていた。
特に学校が嫌とか、そういった理由は無い。だが浪川中学に通う連中はみな、そういう感じに学生生活を過ごしているものだ。
自由と混沌、秩序などというものは存在しない。学校のルールどころか法律も守らない連中の巣窟。それが竜子の通う学園なのである。
「なにか面白いもんでもない──あん?」
ふと竜子は足を止める。
大通りのど真ん中、とてつもなく珍妙な恰好をした者がいた。
左半身はまるで帰属を思わせるような真っ赤なドレスを着ており、金髪の長いいかにもお嬢様な感じの髪形をしていた。
だがその反対、右半身は上下とも白いスーツを着た、短く切りそろえられた黒い髪。
まるで男女が中心から二つに分けられ、それをお互いくっつけたような珍妙奇天烈な服装をしたなにかが、そこにはいた。
「……朝っぱらからなんだ、あの珍妙なコスプレは」
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