第5話


「私、炎がちょっと苦手なんだよね。いっぱい注意してくるし」


「大体姫が悪いから仕方がない」


「姫っていうな!まあそうなんだけどさあ」


 炎は、あんまり戦いで周りのものを壊すなとか、怪人を倒した後ほったらかしにするなとか、変身前の格好の制服のスカートが短すぎるし、そもそも制服を改造するなとか、いろんなお小言をいってくるのだ。


 どうやら炎は育ちがいいらしく、そういうことを注意せずにはいられない性格なのだ。あと多分お嬢様だ。偉そうだし髪の毛もなんかふわっと巻いているし、なにより今どき自分のことをわたくしって言うタイプだし…


 炎は私の魔法少女のセクシーな格好についてもよく思っていないはずだ。


 だって、苦虫を噛むような顔で私のドレス姿をみているしね。これについては本人でもどうしようもないことなのは分かっているのか、言葉にはされていない。


 おそらく炎は魔法少女であることにプライドを持っており、炎なりの魔法少女としての理想像がしっかりあるのだろう。


 どうせ魔法少女は清く正しく、みんなの憧れる存在であるべきというようなのが理想なんだろうな。そんなこと、私に求められても困る。


 ちなみに水の方はというと、話しかけられたことがないので特にどんな人物かは知らない。


 何故か私に話しかけたそうにしている姿はよく見るのだが、実際には話しかけられていない。私も進んで他の魔法少女には声をかけないので、全然印象にないのだ。しいていえば真っ当に魔法少女しているなぁと思うくらいかな。


「あの怪人の能力変わってるねぇ…でも、傍から見ると凄い綺麗」


「能力は特異。でも、かなり強いと推察する。二人が苦戦してる」


 戦いの現場を見ると凄いことになっていた。


 一言でいうと、一面色とりどりのお花畑。通行人が着ている服を無理やりお花のドレス姿に変化させたり、建物の看板や店の内装などを無差別にお花で装飾したり変化させたりしている。


 怪人の強さについて大雑把に言うと、だいたい悪ければ悪いほど強い。これは体験談だ。


 だが、あの怪人はそんなに悪いことをしていないように見えるのにやたらと強い。これは珍しいことなのだ。


 怪人の強さは変化前の人間の負の感情が大きいほど強くなり、怪人の能力はその変化前の人間の隠れた欲を強引に叶えるための能力となると言われている。


 だから、あの怪人の元になった人は、なにか強い負の感情を持っており、周りを全て花だらけにしたいという大きな欲があったのだろう。うーん、なんだその欲。変な欲だな。


 なぜあの欲で負の感情が強いのかは謎だが、そこらへんは私は考えない。そういうのはちゃんとした魔法少女にまかせよう。私は何も考えずに怪人をぶん殴るだけだ。


「長引きそう」


ユリアがそう呟く。


 確かに怪人はピンピンしている割に、魔法少女達はボロボロだ。


 まあそれでも、魔法少女というのはどんなピンチでも逆転してしまう生き物なので、大人しく待っていれば最終的に勝利するのだろうが、見ているだけだと暇だ。


「それは困るな…よし決めた!乱入しよう!」


 通常魔法少女が戦っているところに、断りも入れずに加勢するのはマナー違反なのだが、そのマナーは普通の魔法少女が決めたマナーだ。普通じゃない私には当てはまらない。


  …という言い訳も用意したし、心置きなく不意打ちしますかね。


 実は少しやってみたい技があるのだ。この技は隙だらけの相手にしかできない。


 基本的に怪人を正面から殴ってばかりだったので、新しい事を試せるというのはなんだかワクワクするな。


がんばれー!

負けるなー!

信じてるぞー!

ふたりとも頑張ってー!


 今丁度水と炎がなんとか周りの応援を力にして立ち上がっている。


 その状況を背に、私は怪人から距離を取る。その距離を助走として全力で走る。その勢いのまま空中に走り幅跳びのようにジャンプ。空中に浮くことでさらに勢いを激しくする。


 標的は怪人。ロックオン完了。体勢を整えてっと…


「みなさん応援ありがとう!さて、わたくし達の反撃の時間よ!くらいな「ドロップキーーク!!!」


ドカーン!


 私は隙だらけの怪人の背中にドロップキックをお見舞いしてやった。あー気持ちよかった。


 怪人はすごい勢いで吹っ飛んでいく。かなり勢いがあったからね。そりゃそうなるか。


 戦っていた魔法少女や、周りの二人を応援していた人達も、その状況に口を開けてぽかんとしている。


 あ、ちょっとふっとばしすぎて店の建物ちょっと壊しちゃった…やっちゃったな。


 そんなことを考えていると、炎はどうやら正気に戻ったらしく、私に激しく注意してくる。


「ちょっと!加勢するのはいいけど、一言くらい声かけなさい!あと魔法少女が不意打ちなんて卑怯な真似をするんじゃありません!あと建物を…」


「あーあー聞こえなーいー」


 私は耳を塞いだ。はいはい私が悪うございました。


 怪人を見るとしっかり倒せたようで、浄化されている証である煙がしっかりと立ち上っている。


…ま、まあ倒せたしいいか!流石魔法少女!

…結果オーライ!

いつもありがとう!

炎の魔法少女ちゃん俺と結婚してくれー!

水の魔法少女は私がもらいますね。

お母さん、あれが最近噂の魔法少女?なんだかエッチな格好だね。

あの娘が来たってことは…あのちっこい女の子もいるはずだ!俺はあのちっこい女の子が推しなんだ!探せ探せ!

私も将来姫ちゃんみたいなかっこいい女の子になりたい!

ヒューヒュー!流石魔王少女だぜ!やることがワイルド!


 倒し終わったので、いつものごとく見ていた遠くで見ていた野次馬達が騒ぎ出す。


 私みたいになりたがっている幼女、あんたは見る目があるな。幼女のお母さんは苦笑いしていたが…あと最後のやつ!私を魔王少女とかいうな。誰が魔王だ!


「よし!終わった!ユリア!遊びに行こうぜ!」


「ちょっと!いつも言っているけど倒した後ほったらかしにしない!」


 遊びに行こうとする私のドレスを掴み、止める炎。元に戻った人のアフターケアなんてわざわざ魔法少女がやらなくていいじゃん。


「でもさー、私にはそういう心のケアとか向いてないんだから仕方ないんだよ。なぁユリア」


「うん。絶対に姫にはできない」


「はあ…ほんとにあなた達は…魔法少女なら最低限それくらいできるはずなんですけどね…まあ今回は私達がいるからいいでしょう。適材適所とも言いますし。でも!最低限そこで大人しく見ていなさい。あなた達がいつも現場を放置して帰るせいで、わたくし達がアフターケアだけするはめになっているんですからね!」


 炎がまくしたてるように私達に文句をつける。


 へぇ〜そうだったのか。よく私達に遅れてくることは知っていたが、何をしているかまでは知らなかったな。私の後処理までわざわざやってくれていたのか。まあなんというか…お疲れさまです!今後ともよろしくお願いします!


 というか、魔法少女ってみんなカウンセラーみたいなことができるんだな。魔法少女って戦うだけだと思っていた。まさかそんな能力が魔法少女に標準搭載されているとは…


 やっぱ後天的に魔法少女になったせいで、私には魔法少女として足りないものがいっぱいあるようだ。


 そんな風にしみじみ思っている私に、炎は再度話しかけてきた。


「さて、あなた達もいずれわたくし達と同じようにできるように、わたくしの相棒のやり方をみて学びなさい。わたくしの相棒はアフターケアがとても上手なんですのよ」


 炎が自慢げに語る。態度から、水のことを心底尊敬している様子が分かる。


 内心では今後もアフアーケアなんてやるつもりはないが、それを口に出すと炎がうるさそうだ。なので、私は大人しく見学しているふりをすることにした。


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