第41話 明かす

待つ間に刺した木を回し、全体が焼けるようにする。


それから待つこと数十分……今まで以上に香ばしい香りがしてきた。


オルトスも気づいたのか、こちらにやってきた


「ウォン!?(できた!?)」


「うむ、もう良いだろう。アリア殿、感謝する。土魔法がなければ、一時間以上かかったわい」


「いえ、これくらいお礼のうちには入りませんよ」


「いやいや、そんなことはない。儂にできることがあれば、何なりと言うといい」


「……はい。では、魔法を解除します」


アリア殿が手をかざすと、土壁が消える。

そして中から、黄金色に輝くコカトリスの丸焼きが姿を現した。


「おおっ!」


「ウォン!!(うまそうなのだ!)」


「良い色ですね」


「まさしく食べ時というやつじゃな。よし、早速切り分けていこう」


まずは胴体左部分をナイフでこそげ取り、アリア殿用の皿に盛る。

次にオルトス用に片足部分を切り落として草の上に置く。


「さあ、食べよう」


「シグルド殿は?」


「ふふふ、無作法を許してくれい——最初はこうすると決めていたのじゃ!」


まだ手をつけてない右側胴体に、豪快にかぶりつく!

すると、スパイスが効いた野性味溢れる肉の味が口の中に広がる。

弾力もある肉をぶっちぎり、咀嚼していく。


「もぐもぐ……カァー! うまい!」


「ウォン!(我もやるのだ!)」


そう言い、足にかぶりつく。


「はぐはぐ……アオーン!(うみゃい!)」


「ああ、実に良い。噛めば噛むほどに肉汁が溢れてくるわい」


「ゴクリ……わ、私も……美味しい」


「それなら良かったわい」


「なんでしょう、こんなシンプルな味付けなのに」


「それは場所や空気や景色、そして自分で苦労して作ったからじゃな」


川のせせらぎ、綺麗な夜景、そして非日常的な空間。

これらが最高の調味料となり、味を何倍にも引き出している。

これだから、野営はやめられないわい。


「なるほど……確かにそうですね。いつもは店で出してもらったり、基本的に野宿はしないので」


「まあ、女性一人ではするものではないな。そう言う意味でも、一人では受けられない依頼じゃったか」


「仰る通りです。探すだけで日が暮れることもあるので、どうしても受けられる依頼に限りがありますから」


すると、オルトスが儂の足に鼻をツンツンする。

振り返ると、口周りがべちゃべちゃになっただらしのない姿に。


「ウォン!(お代わりなのだ!)」


「もう食べたのか!?」


「アオン!( いっぱい食べていいって約束したのだ!)」


「ははっ、そうであったな。よし、では次は胴体部分にするか」


儂が齧った胴体部分を切り取り、それを丸々あげる。

儂とアリア殿はもう片方の足を切り分け、それぞれの皿に盛る。

そして星空の下、ただ静かに食べ進めていくのだった。




不思議な時間だ。


身分も忘れ、ただありのままの姿でいられるような。


確かにシグルド殿の言う通り、非日常的な空間だからかもしれない。


……話してもいいだろうか? この複雑な気持ちを。


「ふぅ……食ったわい」


「部位によって味が違うのも良かったですね」


「うむ、そうじゃな。今度は煮込みとかにしても良いかも知れん」


「その場合は、メリッサ殿にお願いした方が良いかと」


「ほほっ、それはそうじゃな。じゃが、もう一回出会うまで儂がここにいるかどうか」


そうだった、彼は旅人。

そんなに長居をしないで、ここから出て行ってしまう。

……だからこそ、話しても良いかもしれない。


「シグルド殿、少しお話を聞いてくれますか?」


「……儂でよければ」


「感謝します。実は……私はとある貴族家の娘なのです」


すると、シグルド殿は驚くことなく頷く。


「やはり、隠せてはいませんでしたか。それで、何故冒険者をやっているかというと……私は騎士に憧れているのです」


「騎士とな? それは誰かに仕えたりする意味かのう?」


「それも素敵だなと思います。ただ、まだ出会えていないので……ますば民に寄り添える騎士になりたいのです」


尊敬する主人に仕える騎士、それも憧れがないわけじゃない。

ただ自分がそう思える人がいなく、いまいち実感がわかないのだ。


「ほう? しかし貴族であるなら、別に無理な話ではない」


「確かにそうなのですが……私は一人娘なので結婚を迫られているのです。家に入ったら、当然騎士などにはなれません」


「なるほどのう。確かに子育てなどをしながらは難しいのが現実じゃな」


「ええ。幸いにして、両親は好きにしなさいと言ってくれてます。しかし、求婚相手は高位の貴族家……故に簡単には断ることが出来なかったのです」


「ふむふむ……しかし、お主は冒険者をしている」


「私が騎士になりたいと申したところ、相手が条件を言ってきたのです……もしも一年以内に冒険者ランクが鋼級になれば、結婚の話を無しにすると。それどころか、騎士になれるように王都に掛け合うと」


久々に、誰かに話せた。

以前パーティーを組んだ方々にも、近いことを語ったことがある。

しかし、その時の反応は決まって……失笑だった。

女が騎士なんてあり得ないとか、夢を見過ぎとか……果たして、この方は。


「ふむ、そうかそうか。それで頑張っているのじゃな」


「……それだけですか?」


「うん? いや、話のわかる貴族もいるものだなと」


「はい、有り難い話です」


……この人は笑うことなく、ただ自然と受け入れてくれた。


何せ、その貴族の方も無理だとは思っているに違いない。


だから真の意味で、シグルド殿だけが理解してくれたのだ。


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